紹介
後鳥羽帝の即位から、後醍醐帝の隠岐よりの
還京まで、十五代、約一五二年間を記した
編年体の歴史物語の全注釈。
中世院政期の歴史や文化を克明に記録しながら、平安王朝的優美典雅への憧憬が極めて強く存在し、洗練された文体や表現の工夫、人の世の栄枯盛衰や無常観が強く感じられる、文学性も極めて強く、豊かな歴史物語──。
【本書の特色】
1●本文・詳細な「語釈」・わかりやすい「通釈」に加え、
作品理解の手助けとなる「解説」により構成。
2●平易明快な現代語訳。
【「増鏡」という作品の内容(内実)を述べるのに、先ず第一に、帝紀を重視して、これをほぼ正確に記述して成っている作品だという点である。これは、「歴史物語」の系譜を継承している作品であるからには当然の事ではあるが、即ち「増鏡」は、後鳥羽帝以後、歴代天皇の出生や元服や即位、そして退位後の院政、その間の政治業績、紛争にいたるまでを、かなり克明に記録的に詳述する。その細叙方針の余りにか、院政時代の帝位の決定ということが、両統交互の迭立方法によるのか、又は公武両方の妥協折衷方策によるのか、或いは幕府意向に一任という形を採るのか、ともかく帝位というものの決定が、極めて軽々で安易なことである点をも示す。これは、かの持明院統と大覚寺統との長い間続いた紛糾や紛争のことであり、そしてそれは、更に南北両朝の戦乱や戦闘の時代にまで直接している政治上の問題点なのであり、「増鏡」が、子細にここまで書き及んでいる事に感じる。
なお作品全体に、平安王朝的優雅やその文化が、依然として(院政期)に現に実在していること、即ち優美な王朝的文化が伝統的に尊敬され現存している事は、作者の強い執筆意図でもあったようでもある(木藤才蔵著「古典文学大系増鏡」)。】...(本書「第一編 増鏡概説」より)
目次
第一編 増鏡概説
(一)増鏡の作者について
(二)成立時期について
(三)構成形式について
(四)増鏡の内容について
(五)増鏡作品の特徴
凡例
第二編 増鏡全注釈
序文
増鏡 上
第一 おどろのした
後鳥羽院の出生・即位/後鳥羽は和歌の才すぐれ、名歌多し/土御門帝の即位/勅撰和歌集の概観/女流歌人 宮内卿の君/新古今集と後鳥羽院/順徳天皇の御代/後鳥羽院の逸話(一)/後鳥羽院の逸話(二)/清撰歌合のこと/慈円奉献の長歌/定家応報の長歌/控え目な土御門院の歌
第二 新島守
武士の起源と源平の歴史/源頼朝の上京とその後/頼家の死と実朝のこと/実朝の横死と摂家将軍 /後鳥羽院の挙兵計画/承久の乱 泰時さとす父義時/朝廷方の戦況/戦争の経過と結果/土御門院の四国流謫/隠岐で苦艱の後鳥羽院/隠岐での春夏秋冬/隠岐での抒情の歌など
第三 藤衣
思いも掛けぬ後堀河帝/仲恭帝廃位のこと/関白道家のこと 土御門院の死/後堀河の退位 四条幼帝/後堀河院の死去/遠島御歌合のこと/後鳥羽院 在島十九年で死去
第四 三神山
後嵯峨院の生立ち/四条帝 幼い遊びで急死の事/幕府の意向で後嵯峨決定/四条帝を追想 /後嵯峨の即位 女御入内
第五 内野の雪
公経 西園寺を竣成/姞子の安産祈願/後深草帝の生誕/後深草即位と九条家の繁栄/大嘗会のこと 後嵯峨院の風流/宇治の御幸 鳥羽の御幸/吹田御幸 院の風雅/後深草の内廷の様/住吉御幸 宗尊親王のこと/後深草帝の元服 朝覲行幸/院の熊野御幸
第六 おりゐる雲
後深草へ女御(公子)入内/女御(公子)の入内 三日夜の餅/公子立后 実氏一家の栄え/院の高野御幸/亀山殿の壮麗と幽趣/大宮院 西園寺で一切経供養/後深草帝退位の心情
増鏡 中
第七 北野の雪
亀山帝の即位/入内の佶子に兄公宗恋慕/佶子の入内 嬉子も后に/亀山殿への行幸/亀山殿での歌合/続古今集の撰集/宗尊親王 将軍罷免/公相大臣 親に先立つ悲しみ/後宇多帝の生誕
第八 あすか河
後嵯峨院 五十賀試楽(一)/後嵯峨院 五十賀試楽(二)/富小路殿にて舞御覧/後嵯峨院 出家の志/後嵯峨院ついに出家/後嵯峨院の法華八講/後嵯峨院と後深草の方分ち/後深草に遊義門院生る/後嵯峨院服用の薬 紛失/後嵯峨院の崩御/院の崩御 出家せぬ人出家の人/後深草と亀山の兄弟帝 不和/東宮の難病亀山帝全快さす/内裏焼亡のこと 亀山帝退位の志
第九 草枕
後宇多の即位 亀山院の御幸/後深草出家の志強まる/北条時頼の廻国修行/伏見帝の立坊は時宗の力/後深草院と前斎宮(一)/後深草院と前斎宮(二)/後深草院と前斎宮(三)/実兼と師忠にも会う前斎宮/実兼の末長い愛
第十 老のなみ
後宇多帝の元服 朝覲/亀山院 実妹との愛恋/亀山院の後宮の乱脈さ/後深草院での蹴鞠の遊び /新造の長講堂移御/両院 伏見殿へ御幸/亀山院に皇子生誕のこと/蒙古来寇(弘安の役)/山法師たちの強訴/大宮院姞子 讃/北山准后九十の賀(一)/北山准后九十の賀(二)/北山准后九十の賀(三)/北山准后九十の賀(四)/北山准后九十の賀(五)/北山准后九十の賀(六)/北山准后九十の賀(七)/後宇多帝の譲位
増鏡 下
第十一 さし櫛
伏見帝の即位 永福門院/永福門院との婚儀/ところあらわし(一)/ところあらわし(二)/永福門院立后 大嘗会/浅原為頼 宮中乱入事件(一)/浅原為頼 宮中乱入事件(二)/源有房と掄子の愛(一)/源有房と掄子の愛(二)/新陽明門院の乱脈/鎌倉将軍惟康の罷免/久明親王 将軍として下向/伏見天皇 新春の後宮/後伏見帝へ譲位/関東の意向で後二条の即位/亀山院へ後二条帝行幸/後深草院の死去/明くる年 亀山院の死去/亀山院の喪中 皇子と後宮/帥宮の悲傷 人々と哀悼歌/帥宮と姉宮の贈答歌
第十二 浦千鳥
後宇多院の後宮のこと/後二条帝の死去/花園帝即位 東宮に後醍醐/玉葉和歌集の撰進/伏見院の出家と死去
第十三 秋のみ山
後醍醐帝の即位/後醍醐帝の後宮/大納言典侍の乱倫生活/続千載集を為世が撰/盛大な歌合 八月十五夜/後醍醐帝の朝覲行幸(一)/後醍醐帝の朝覲行幸(二)/実権を帝に委譲の事/清涼殿で作文会/乞巧奠の盛宴/石清水への行幸(一)/石清水への行幸(二)/賀茂神社へ行幸/老関白家平の頽廃
第十四 春の別れ
後宇多院の重態と遺言/後宇多院の法要/続後拾遺集の撰集/正中の変 恐るべき陰謀と欺瞞/東宮の死去/残された人々の悲傷/続後拾遺集の成立/持明院統からの立坊/後醍醐の一宮元服 公事の参仕
第十五 むら時雨
皇后の懐妊と祈祷/猶も続く祈祷 実は討幕の為/清涼殿で和歌披講/北山行幸舞楽の事/明くる日の盛大な歌会/俊基捕えらる 討幕の機運/帝奈良へ走り、笠置山へ/宮中に敵軍乱入する/叡山で偽天皇の戦い/幕府の政情 持明院統の様/笠置の戦い、落城 帝捕わる/帝、宇治から京へ 幽閉/皇子と愛妃の悲嘆/幕府の意向で光厳が即位
第十六 久米のさら山
光厳帝の春 後醍醐隠岐へ/後醍醐帝 隠岐へ/土佐へ中務宮流罪/帝 須磨・垂水・明石を過ぎる/久米のさら山を過ぐ/隠岐に着き、島での明暮れ/京の人々の嘆き 皇后禧子/八歳の恒良親王/為世は歌で為定の赦免を/廷臣への処罰─公敏と師賢/源具行の最期(一)/源具行の最期(二)/藤房、資朝、俊基ら処罰/隠岐での苦難の明暮れ/京では光厳帝の御禊 大嘗会/正成と大塔宮の活躍
第十七 月草の花
遠島の後醍醐 父院を夢見る/後醍醐 島を脱出、船上山へ/尊氏逆心 六波羅攻め/両六波羅 陥落/義貞鎌倉攻め 幕府滅亡/後醍醐還京し二条富小路が御所/一陽来復 政治始め
【補足】
三種の神器
持明院統か大覚寺統か
あとがき