紹介
ハングル・仮名を獲得した女性は色をどのように描いたのか。
韓国の色彩文化への招待。
韓国の伝統的色彩についてのまとまった日本語の書物は展覧会の図録があるくらいで、ましてや韓国王朝文学の色についての研究は日本では紹介されていない。最新の研究成果を反映した貴重な講演録。
儒教に束縛され、理念で制御された漢字世界に生きる朝鮮王朝の女性にとって、男女の情の意味も含む〈色〉は、忌避し隠すべき対象であった。
しかし東宮妃の自己語りである『ハンジュンロク』は、ハングルを用いて色を感覚の次元で表現してみせた。
一方多彩な色の世界を描いた『源氏物語』では、色を観念的に捉える傾向がある。
両国を代表する女性文学が正反対の志向をみせることに着目。
日韓を横断し『源氏物語』を専門にする学者が、独自の視点を通して王朝文学に記された色彩の魅力を読み解く。
『ハンジュンロク』は惠慶宮洪氏(ヘギョングンホン、1735~1815)が、61歳になる1795年に書き始め、1805年に書き終わった、自己語りの王朝文学。夫である思悼世子(サドセザ、1735~1762)の悲劇的な死を、自己語りの形式で事実と虚構を混在させながら記した小説である。韓国の王朝女性文学を代表する作品。
作者は10歳の時、東宮妃として入内し、81歳で死去した。正祖(チョンジョ。イ・サン)の母であり、王妃に準じる身分で、全人生を宮廷でおくった。
『ハンジュンロク』は異本もあり、内容や構成も複雑なことから、自伝、日記、随筆、歴史小説、宮中実記文学とも言われているが、それこそジャンルを越境する作品である。
あまりにも劇的な時代を背景にしているがために、韓国ではしきりに演劇、映画、ドラマ化される作品である。
目次
はしがき(小川靖彦)
講師紹介(小川靖彦)
Ⅰ はじめに
王朝、色彩、そして文学
Ⅱ 韓国の伝統色
華やかな「五方色」の世界
「五方色」の意味するもの
色の位階秩序
Ⅲ 韓国の王朝文学
王朝女性文学の成立
韓国の王朝女性文学の成立過程
朝鮮王朝のルネサンス
Ⅳ 『ハンジュンロク』とは
『ハンジュンロク』という作品
自己語りの文学
『ハンジュンロク』の構成についての諸説
Ⅴ 『ハンジュンロク』と色
色の描写の少ない『ハンジュンロク』
省略された儀礼の色
嘉禮
還暦の宴会
翟衣の色
衣服の色を描く
ゴウン多紅チマ
色への抵抗感
英・正祖時代の白衣禁制
Ⅵ 『源氏物語』の白衣
『源氏物語』の〈白〉
無上の美、〈白〉
観念としての〈白〉
講演を聴いて―コメントとレスポンス
■コメント(高田祐彦)
東アジアの伝統色と王朝文学
『ハンジュンロク』と日本古典文学
『源氏物語』の白一色の世界
二つの質問
■レスポンス(李愛淑)
感覚的色彩意識
韓国・日本を通じての「王朝の色彩」
韓国の〈白〉・日本の〈白〉
■会場からの質問への回答
(1) 韓国では青はどのように考えられているのか
(2) 韓国では鮮やかな色彩で表現することについての法的規制はあったのか
青山学院大学文学部日本文学科主催文学交流講座「日本と韓国における色彩と文学」
講演会「色彩から見た王朝文学」について(高田祐彦)