紹介
時代も超え、詩歌・物語・絵画・食べ物など、ジャンルやメディアも越え、国境をも越え、パロディを考え抜く、前代未聞の試み。絵巻物からマンガまで、和歌から福澤諭吉まで。パロディを通して、日本文化を差異化し、再発見していこうとする野心的な書。
二〇〇九年十一月二十七〜二十八日に国際基督教大学(ICU)で開催された「パロディと日本文化」という国際シンポジウムでの発表をもとに成った書。「パロディとカノン」「パロディとメディア」「パロディとアイデンティティ」という三つのテーマと、各論では追い切れなかったものを座談会で検討し、パロディに切り込んでいく。パロディ研究の広がりや、その可能性、方向や方法を指し示した、かつてない書。
執筆は、小峯和明/ハルオ・シラネ/高橋 亨/渡辺雅子/クリストフ・マルケ/田頭正太郎/ツベタナ・クリステワ/張 龍妹/金 鍾徳/染谷智幸/小島康敬/竹村信治/ジョシュア・モストウ/M・ウィリアム・スティール/高崎 恵/古藤友子(執筆順)。
【(本書は)和歌から福沢諭吉まで、時代の枠組みも超え、詩歌・物語・絵画・食べ物など、ジャンルやメディアの境界も越えている。加えて、日本文化と他の東洋文化、日本文化と西洋文化との比較を視野に入れたので、国境をも越えたものである。また、シンポジウムでは、主として西洋の文化的実践に基づいている現代の文化論や文学理論の限界を超える、少なくとも、超えようとすることを目指したつもりである。「パロディ」というテーマだからこそできたことだが、それは反面、日本文化における「パロディ」があらゆるところに遍在していることの証明にもなったように思う。……本書冒頭「果たして「パロディ」とは?」より】
目次
「はじめに」に代えて―
果たして「パロディ」とは?
●ツベタナ・クリステワ
1 パロディ研究の重要性
2 「パロディ」の定義
3 「パロディ」の働き
4 日本的「パロディ」の特徴
5 本書の背景について
1 パロディとメディア Parody and Media
物語再生装置としてのパロディ―『平家物語』を軸に―
●小峯和明
はじめに
1 お伽草子『精進魚類物語』―擬人化とキャラクターの特化・清盛像
2 語り物・絵入り本『義経地獄破り』―場面の変換と再演・南都焼き討ちの反転
3 詞書本『百鬼夜行絵巻』―舞台装置の措定・福原遷都という時空
4 天草本『平家物語』―〈雑談の平家〉・物語の変奏
5 『源平盛衰記』―『平家物語』の再演、再創造
めかし/やつし―パロディ・見立て・「瀟湘八景」―
●ハルオ・シラネ
はじめに
1 鈴木春信と近江八景
2 俳諧と狂歌の役割
3 落雁の変奏
4 「石山秋月」の変奏
5 俗にある雅、雅にある俗
「十二類歌合絵詞」の歌と絵における〈もどき〉の表現法
●高橋 亨
はじめに
1 歌仙絵の多様な展開とそのパロディ性
2 狩野大学氏信画「十二類歌合絵詞」の位相
3 十二支の動物たちによる歌合の経緯
4 詞書本文の翻刻と他本との差異
5 歌の表現と絵との連想関連
6 〈もどき〉としての十二類歌合
おわりに
江戸時代の絵画、版画におけるやつし(見立)表現
―『小倉山荘図』について―
●渡辺雅子
はじめに
1 「定家」の芸能での変容―能『定家』
2 「定家」の芸能での変容―古浄瑠璃『小倉山百人一首』
3 「定家」の芸能での変容―土佐浄瑠璃『定家』
4 「定家」の芸能での変容―歌舞伎『立髪定家かずら』
5 奥村政信『小倉山荘図』を改めて考える
江戸時代の民画におけるパロディの精神―大津絵再考―
●クリストフ・マルケ
はじめに
1 江戸時代の大津絵における風刺・パロディの精神
2 江戸後期の絵画における大津絵の見立て・パロディ
3 幕末・明治の大津絵見立て
まとめ
ねじられたパロディ
●田頭正太郎
1 語源の傍らで
2 日本語に並行して
3 運動性を対象化する
4 そして、ねじられた現代と共に
2 パロディとカノン Parody and Canon
パロディとしての「擬古」の技巧
―『白露』の考察から中世王朝物語の再解釈へ―
●ツベタナ・クリステワ
1 ポスト源氏文学作品の評価
2 詩的カノンにおける「白露」の意味合い
3 『白露』のあらすじ
4 パロディとしての『白露』の読み
5 『白露』におけるパロディの手法と意味
『源氏物語』における漢文化受容の位相
●張 龍妹
継子譚の類型表現とパロディ
●金 鍾徳
はじめに
1 継子譚と失靴事件
2 継子譚の類型表現
3 『源氏物語』の継子譚とパロディ
おわりに
近世文芸においてパロディとは何だったのか
―井原西鶴『本朝二十不孝』を中心に―
●染谷智幸
はじめに
1 遊廓の平安朝パロディ
2 『本朝二十不孝』の序
3 『本朝二十不孝』巻一の一「今の都も世は借物」
4 『二十不孝』の研究史と経済構造
5 西鶴と東アジアの海洋域
結語
「性」と「聖」とを繋ぐ笑い―パロディ繚乱の江戸文化―
●小島康敬
はじめに
1 パロディ満載の江戸文化
2 「聖」も「性」へと茶化されて
3 『論御』―『論語』の枉解・性解―
結びに代えて
3 パロディとアイデンティティ Parody and Identity
パロディと主体
●竹村信治
はじめに
1 〈真似〉る主体
2 〈真似〉させる主体
3 パロディの主体
4 批評される〈真似〉
5 批評の声に取り巻かれるパロディの主体
おわりに―〈道化〉る主体
見立絵・やつしに見るジェンダー
●ジョシュア・モストウ
二つのpara : オリジナルとイメージ群
●高崎恵
1 キリシタン・イメージ
2 オリジナルと対立するイメージ群:騒乱・魔法・異形
3 オリジナルを対照するイメージ群:不思議・異界と仮想世界
4 オリジナルに寄り添うイメージ群の可能性
結語
文明開化とパロディ―万亭応賀の『活論学門雀』―
●M・ウィリアム・スティール
はじめに
1 万亭応賀の再評価
2 福沢を「穿つ」
3 『学門雀』
結論
中国飲食文化にみるパロディ―仮料理管見―
●古藤友子
小序
1 宋・元代の仮料理
2 明・清代の仮料理
3 素菜と仮料理
4 中国文化における「仮」とは何か
小結
4 座談会 Parody and Japanese Culture : Symposium
はじめに
序―発表のまとめと議論の問題提起
破―主要な問題点の確認
急―問題点づくし
むすびに
シンポジウム開催記録
執筆者プロフィール