紹介
変容し続けてやまない説話と説話集をどう捉えればいいか。
それぞれの古代説話集が説話を収集し表現していく様相を分析し、説話集が読まれ、書写され、引用され、増補され、抄出され、他のジャンルと交渉していく状況を総体的に把握し記述していこうと試みる書。
流伝しつづけ、時代を渡る説話集の生成する相を捉えることは可能か。
【したがつて、説話集は成立してそこで安定して終わるのではなく、それが享受される場、享受する人によって形を変えていく。抄出も増補も改編もひとつの編纂であり、新たな体系化にほかならなかった。このように場に応じて、享受者に応じて変容しつづけてやまないもの、それが説話集であったといわなければならない。…第七章より】
目次
序章
1 説話集研究の観点
一 はじめに
二 再録「日本の説話・説話集研究の混迷と拡散のなかから」
三 何が問われていたか
四 説話とは何か、説話集とは何か
五 説話集の言語行為
六 説話集の享受と生成の場
第一章●説話と説話集
1 古代の説話と説話集
一 はじめに
二 説話の場
三 伝記・類書・幼学書
四 書写・抄出・改編
五 記・実録
六 物語
2 院政期の説話と説話集
一 はじめに
二 教命録
三 説法の場と説話集
四 仏教説話集の編纂・再編
五 むすび
第二章●日本霊異記
[概説]
1 日本国現報善悪霊異記の題号と序文
一 はじめに
二 題号に関する諸説
三 現報と善悪と霊異
四 儻善惡忄をめぐって
五 現報=善悪=霊異
六 むすび
2 日本霊異記の説話と表現─因縁の時空─
一 はじめに
二 縁・宿縁・因縁
三 中巻第四十一縁
四 因縁を説く者
五 中巻第四十一縁の機能
六 例証としての説話群
七 日本霊異記の方法
第三章●三宝絵
[概説]
1 三宝絵の成立と法苑珠林
一 はじめに
二 三宝絵の法苑珠林引用
三 法苑珠林利用の諸相
四 むすび
2 三宝絵の撰述と享受
一 はじめに─花山朝の著述群
二 二品女親王尊子
三 平易さと体系性
四 結縁への促し
五 主要三伝本の三様の表記
六 むすび
第四章●法華験記
[概説]
1 法華霊験譚の受容と編纂
一 はじめに─百座法談聞書抄と説話
二 百座法談聞書抄と探要法華験記
三 探要法華験記の編纂
四 今昔物語集の編成
五 編成と体系と原理
六 本朝法華験記の享受
2 本朝法華験記の説話と表現
一 はじめに
二 比丘往生譚から優婆夷往生譚へ
三 法華霊験の証拠と証人
四 視点人物の機能
五 大乗の懺悔
第五章●打聞集
[概説]
1 打聞集本文の成立
一 はじめに
二 成立説の検討
三 宛字の意味
四 表記の改変
五 本文の改変
六 本文の生成
第六章●今昔物語集
[概説]
1 今昔物語集説話の世界誌
一 はじめに─成立の環境
二 三国仏法史
三 仏法/世俗対応構成
四 公と兵
五 世俗か王法か
六 公の外縁
七 混沌と秩序
2 今昔物語集の仏教史的空間
一 はじめに─説話の水準と編纂の水準
二 婆羅門僧正渡来譚をめぐって
三 海を越えて感応する知
四 対中華意識の見え隠れ
五 今昔物語集にとっての異空間はどこにあるのか
3 今昔物語集の滑稽と世俗─信濃守藤原陳忠強欲譚をめぐって─
一 はじめに
二 説話の機能と表現行為
三 滑稽の体系化
四 公とその外縁
五 世俗とは何か
六 隣り合う説話どうしの干渉
第七章●説話の場と説話集の生成
1 説話と説話集の時代
一 はじめに
二 大江匡房の文業と説話
三 歌語の由来譚と説法の場
四 注好選・俊頼髄脳から今昔物語集へ
五 説話集の編纂と改編・抄出
2 唐代仏教説話集の受容と日本的展開
一 はじめに
二 「伝記」としての説話集
三 説法教化の場における説話の機能
四 法座における説話利用の方法
五 唐土の霊験記受容と日本的特徴
六 日本の法華験記の編纂・抄出・再編
七 むすび
初出一覧
後記
書名索引
人名索引
古代説話集の巻・説話索引