紹介
異文の総体を掴む。
豊かな異文を有することこそ平安時代物語の特性であり、たとえ原作者による原本文といえども異文のうちの一つでしかない。
本書では「最善本」の提示を目的とはせず、諸本の有する「本文のヴァラエティ」そのものを研究対象とし、源氏物語本文研究にも波及する重要な問題を論じる。
原本の再建を目指す従来の本文批評とは異なり、もろもろの異本を相互に位置づけることを目指した、まったく新しい本文研究。
【本書は、この、活字本の形で提供された「最善本」だけを研究対象としている現今の物語研究に対して異を唱えるものである。平安時代の著名な物語はどれも、伝来のプロセスで内容の異なる種々の異本を生み出してきた。それは平安時代物語というジャンルの重要な特性のひとつである。したがって、この特性を無視し、平安時代物語を近代の小説などと同じように取り扱う研究は、物語研究のあるべき姿ではないと私は考える。
こうした考えのもと、本書では、原本文への遡及を目的にしてきた従来の本文研究とは袂をわかち、現存するさまざまな異本の本文をどれも等しく物語本文として認めた上で、種々の異本の本文が相互にどのような関係をもっているかを考察した。……本書「はじめに」より】
目次
はじめに
第一章 狭衣物語諸本の分類と系統
第二章 文学研究と本文批評
第三章 深川本狭衣物語本文批判
一 深川本について
二 巻一冒頭の脱文をめぐって
三 深川本本文の実態
四 深川本の位置づけ
第四章 狭衣物語巻一「東下り」の異文をめぐって
第五章 狭衣物語巻三系統論存疑
第六章 狭衣物語巻四系統論存疑
第七章 狭衣物語諸本の本文分析
はじめに
一 いかにすべき忘れ形見ぞ
二 狭衣の楽才
三 ないがしろなる御うちとけ姿
四 春宮からの手紙
五 嵯峨帝譲位
六 斎院移居
七 にごりえに漕ぎ返る舟
八 有明の月かげ
九 大方は身をや投げまし
本章のまとめ
第八章 引用論と本文異同
第九章 源氏物語研究への提言
礎稿一覧
あとがき
狭衣物語本文引用箇所索引