紹介
日本人はどのように死を受け入れ生きてきたのか。
いのちへの畏(おそ)れが失われつつある現在、かつて持ち得ていた生と死をめぐる、いにしえの人々の豊かな知恵と視座の回復を目指す。神話に始まる古事記から近代の漱石まで、文学・芸能・宗教の古典作品を通して、日本人の、そして我々の死にまつわる文化を見極める。
【伝統や文化が共有されていた時代には、いのちは自己を超え、他者とつらなり、万物に開かれていたといってよい。
そのいのちの暖かさや哀しさやなつかしさを体得するには、人が生まれ、老い、病み、そして死んでいく現場に立ち合い、共体験するに若くはない。なぜなら、そこには必ず生老病死をめぐることばや仕来り、儀礼や信仰があり、それらが文化として継承されて来たにすぎない。
本書は、いのちへの遡行を通して、文化・型の発生のメカニズムを見極めようとする三人の学徒の熱意から生まれた共同研究の成果である。...「はじめに」より】
目次
はじめに 金山秋男
生と死の古代 居駒永幸
序章 生と死の境界
第1章 生と死の起源神話
はじめに
一 黄泉国神話と邇々芸命婚姻神話
二 アメワカヒコの葬儀と遊部
結び
第2章 敗死する皇子と歌
はじめに
一 倭建命
二 忍熊王
三 大山守命
四 軽太子と軽大郎女
結び
第3章 死者の歌の発生
はじめに
一 倭建命の大御葬歌
二 奄美沖縄の葬歌
結び
第4章 挽歌と境界表現
はじめに
一 建王の悲傷歌
二 天智挽歌
三 人麻呂の泣血哀慟歌
四 尼理願の挽歌
結び
第5章 古代的「命」への視座--「命の全けむ人は」の歌--
はじめに
一 思国歌の「命」
二 「命の全けむ人は」の意味
三 万葉歌の「命/またし」
結び
終章 古代文学の死生観
「身替り」劇をめぐっての試論--逆説的な「生」の意義づけ-- 原道生
はじめに--「身替りの贋首」--
第1章 「贋首」の計成立の前提--「生き顔と死に顔は相好の変はるもの」--
第2章 「身替りの論理」の発見
一 「身替りの論理」とは--意図と結果の有機的結合
二 三段階の展開--近世演劇への道程
第3章 生け贄としての身替り--記紀の挿話から--
第4章 神仏による身替り--利生霊験譚の流れ--
一 説教節・初期浄瑠璃
二 加賀掾・角太夫
三 元禄期の近松--浄瑠璃と歌舞伎
四 紀海音
第5章 弱者の果たす身替り--現世の人間関係の中で--
一 中世的源流
二 浄瑠璃の継承--初期の諸作
三 身替りの開花--宝永期以降の近松
おわりに
生死解脱の諸相 金山秋男
はじめに--日本人の死生観--
第1章 色空不二
一 無門
二 掃蕩門
三 扶起門
第2章 身心脱落、脱落身心--道元
第3章 空即是色の美学
一 世阿弥
二 芭蕉
第4章 遊行と放浪
一 一遍
二 放哉
第5章 意識という不幸--漱石の苦闘
おわりに--いのちへの旅--