紹介
うたの森に、ようこそ。
柿本人麻呂から寺山修司、塚本邦雄まで、日本の代表的歌人の秀歌そのものを、堪能できるように編んだ、初めてのアンソロジー、全六〇冊。「コレクション日本歌人選」の第4回配本、清少納言です。
谷のカエデが一せいに逆光線で緋に燃えたち、ああ清少納言の好きな色! と思いーー田中澄江
清少納言(せいしょうなごん)
『源氏物語』の時代のやや前に生き、おなじみの宮廷随筆『枕草子』を残した女房。中関白(なかのかんぱく)道隆の娘中宮定子(ていし)サロンのトップ女房として活躍。紫式部からは才ばしった嫌みな女性とされたが、和漢の故事に通じ、その機知に富んだやりとりや、自然を感覚的にとらえる文章の冴えは、時に紫式部をしのぐ。定子一族の没落の過程を一切描かず、ひたすら定子を讃美する態度を貫いた。歌人としても卓越した技量を示し、多くの宮廷紳士が吸い寄せられたことは、家集や『枕草子』の中に華麗に描かれている。
目次
01 言の葉はつゆ掛くべくもなかりしを風に枝折ると花を聞くかな
02 いづかたのかざしと神の定めけんかけ交はしたるなかの葵を
03 身を知らず誰かは人を恨みまし契らでつらき心なりせば
04 我ながらわが心をも知らずしてまた逢ひ見じと誓ひけるかな
05 濡れ衣と誓ひしほどにあらはれてあまた重ぬる袂聞くかな
06 わたの原そのかた浅くなりぬともげにしき波や遅きとも見よ
07 よしさらばつらさは我に習ひけり頼めて来ぬは誰か教へし
08 ここながら程の経るだにあるものをいとど十市の里と聞くかな
09 恋しさにまだ夜を籠めて出でたれば尋ねぞ来たる鞍馬山まで
10 いづかたに茂りまさると忘れ草よし住吉とながらへて見よ
11 いつしかと花の梢は遥かにて空に嵐の吹くをこそ待て
12 たよりある風もや吹くと松島に寄せて久しき海人のはし舟
13 名取河かかる憂き瀬をふみみせば浅し深しと言ひこそはせめ
14 これを見よ上はつれなき夏草も下はかくこそ思ひ乱るれ
15 訪ふ人にありとはえこそ言ひ出でね我やは我と驚かれつつ
16 月見れば老いぬる身こそ悲しけれつひには山の端に隠れつつ
17 あらたまるしるしもなくて思ほゆる古りにし世のみ恋ひらるるかな
18 風のまに散る淡雪のはかなくてところどころに降るぞわびしき
19 忘らるる身のことわりと知りながら思ひあへぬは涙なりけり
20 心には背かんとしも思はねど先立つものは涙なりけり
21 憂き身をばやるべき方もなきものをいづくと知りて出づる涙ぞ
22 夜を籠めて鳥のそら音ははかるとも世に逢坂の関はゆるさじ
23 その人ののちと言はれぬ身なりせば今宵の歌はまづぞよままし
24 空寒み花にまがへてちる雪に少し春ある心地こそすれ
25 みな人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける
26 夜もすがら契りしことを忘れずは恋ひん涙の色ぞゆかしき
27 野辺までに心ひとつは通へどもわが行幸とは知らずやあるらん
28 露の身の風の宿りに君を置きて塵を出でぬることぞ悲しき
29 これぞこの人の引きけるあやめ草むべこそ閨のつまとなりけれ
30 ちり積める言の葉知れる君見ずはかき集めても甲斐なからまし
『枕草子』段数表示 対照表
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解説「時代を越えた新しい表現者 清少納言」(圷美奈子)
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【付録エッセイ】宮詣でと寺詣り(抄)(田中澄江)