紹介
諧謔性に富んだ反射神経、自負心の誇示、侮蔑への鮮やかな反撃……。一筋縄ではいかぬ誇り高き人々の不退転の反俗・反逆の精神を切れ味鋭い機智に乗せて演じきった舞台、それが『世説新語』の世界である。内乱、戦争、めまぐるしい王朝交替。暗く険悪な乱世を生き抜く魂は、悲哀、憂鬱を乗り越え、豪放洒脱な生き様は究極の言語表現を生み出した。(講談社学術文庫)
乱世に花咲いた嘲弄と逆襲
機智とは抗いつつ生きる者の武器である。後漢末(2世紀末)から東晋末(5世紀初め)。豪放洒脱な竹林の七賢が登場し、「清談」が大流行した時代。当意即妙、鋭い舌鋒……。命がけの言語表現に酔う。諧謔性に富んだ反射神経、自負心の誇示、侮蔑への鮮やかな反撃……。一筋縄ではいかぬ誇り高き人々の不退転の反俗・反逆の精神を切れ味鋭い機智に乗せて演じきった舞台、それが『世説新語』の世界である。内乱、戦争、めまぐるしい王朝交替。暗く険悪な乱世を生き抜く魂は、悲哀、憂鬱を乗り越え、豪放洒脱な生き様は究極の言語表現を生み出した。
王濛{もう}と劉諠倍たん}はつねづね蔡{さい}公に敬意をはらっていなかった。二人はあるとき蔡を訪問して語り合い、しばらくたってから、蔡にたずねていった。--あなたは自分で夷{い}甫{ほ}(王衍{えん})とくらべてみてどうだとお思いですか。
蔡はこたえた。--わたしは夷甫にかないません。王と劉は目くばせして笑いながらいった。--どの点でかなわないのですか。蔡はこたえた。--夷甫には君たちのような客がいない。(排調諠髏?)
目次
学術文庫版まえがき
序 章 機智の書『世説新語』とその時代
第一章 『世説新語』の人びと──その生存様式
(1) 君子神話の崩壊と秩序体系への挑戦
(2) 個の論理の追求
(3) 激情の噴出
(4) 絶対自由の希求──酒・薬・清談
(5) 反抗と保身
むすび
第二章 『世説新語』その機智の構造
その一 遊戯精神
その二 機智の構造
(1) 逆襲的機智表現
(2) 引用(典故の運用)
(3) 比 喩
(4) 比 較
(5) 思考過程の誤りによる機智
(6) 逆説的な表現
(7) 言語遊戯
むすび
第三章 『世説新語』その機智の洗練──人物批評のレトリック
(1) 『世説新語』の人物批評
(2) 擬音(オノマトペ)
(3) 自然現象を用いた比喩(自然比喩)
(4) 比 較
(5) カテゴリー論法
(6) テクニカル・ターム
(7) 圧縮表現
むすび
第四章 『世説新語』と魯迅
(1) 魏晋と魯迅
(2) 魯迅の「敵対的」な機智表現
おわりに
原本あとがき
主要参考文献