目次
はしがき
第Ⅰ部 記述史料と新たな視点
第1章 ムラービト朝におけるジハードの歴史的展開[野口舞子]
Ⅰ はじめに――歴史からジハードについて考える
Ⅱ ムラービト朝におけるジハードの遂行
Ⅲ ジハードの対象としてのムラービト朝
Ⅳ 結び
第2章 スペイン領モロッコにおけるアブドゥルカリームの戦争再考[関佳奈子]
Ⅰ はじめに
Ⅱ スペイン領モロッコの歴史的位置
Ⅲ 『リーフ通信(El Telegrama del Rif)』にみるスペイン領モロッコ
Ⅳ リーフ戦争とアブドゥルカリーム
Ⅴ アブドゥルカリームの言説
Ⅵ アブドゥルカリームと「リーフ・ナショナリズム」
Ⅶ 結び
第3章 草の根の支持基盤から見たイスラーム改革主義運動と植民地期のアルジェリア社会――先行研究とその問題[渡邊祥子]
Ⅰ はじめに
Ⅱ イスラーム改革主義はピューリタン運動なのか
Ⅲ アルジェリアのイスラーム改革主義は誰に担われたのか
Ⅳ イスラーム改革主義運動の新たな理解に向けて
第4章 アルジェリア現代史におけるベルベル運動――1980年「ベルベルの春」[中村遥]
Ⅰ はじめに
Ⅱ ベルベルの概要
Ⅲ アルジェリア独立後の国家統合とベルベル文化運動の展開
Ⅳ おわりに
第Ⅱ部 逆なでに読むナショナリズム形成史
第5章 ザーウィヤ・アル=ハーミルの青年たちと“al-Rūḥ”紙――アルジェリア・ナショナリズム運動の再考[私市正年]
Ⅰ はじめに
Ⅱ al-Rūḥ紙の刊行・配布の概要および所在について
Ⅲ al-Rūḥ紙の内容と性格
Ⅳ おわりに――民衆の声と時代の潮流
第6章 悠久の過去を操る――古代エジプトをめぐる歴史観の変遷[三代川寛子]
Ⅰ はじめに
Ⅱ 古代エジプトの神殿の命運
Ⅲ 中世における古代エジプト観
Ⅳ エジプト・ナショナリズムにおける古代エジプト
Ⅴ 現代のエジプトにおける古代エジプト
第7章 アフガニスタンにおけるパシュトー文学史形成過程の一側面――パシュトー詩人伝『隠された秘宝』の分析を中心に[登利谷正人]
Ⅰ はじめに
Ⅱ 『隠された秘宝』について
Ⅲ 『隠された秘宝』の真正性をめぐる議論
Ⅳ 教科書中における『隠された秘宝』に関する記述
Ⅴ おわりに
第Ⅲ部 いまを映す研究課題
第8章 現代トルコにおけるイスラーム・世俗主義・軍[岩坂将充]
Ⅰ トルコにおける「国家」とイスラーム
Ⅱ 1970年代における社会の分断
Ⅲ 国民救済党と『9月12日』
Ⅳ 1982年憲法と「アタテュルク主義」
第9章 エジプトにおける「アラブの春」の抗議運動――発生、動員、帰結の研究動向[金谷美紗]
Ⅰ 問題の所在――ユーフォリアから失望へ、失われた抗議運動の「その後」への関心
Ⅱ 1月25日革命と抗議運動の研究
Ⅲ 抗議運動の政治的帰結
Ⅳ おわりに
第10章 現代アメリカのムスリム社会とスーフィー聖者――ムハンマド・ナーズィム・アーディル・ハッカーニーの聖者伝の分析から[高橋圭]
Ⅰ はじめに
Ⅱ ナクシュバンディー・ハッカーニー教団の歴史的展開
Ⅲ スンナ派伝統主義
Ⅳ 公式聖者伝
Ⅴ 信徒たちの語り
Ⅵ 現代アメリカのムスリム社会とスーフィー教団
第11章 タイ深南部「パタニ紛争」の要因と特徴[堀場明子]
Ⅰ はじめに
Ⅱ パタニ紛争の歴史的背景と紛争の経緯
Ⅲ 和平にむけた動き
Ⅳ 紛争の社会経済的要因
Ⅴ パタニ紛争の特徴
Ⅵ おわりに
第Ⅳ部 地域の将来とイスラーム主義の実相
第12章 モロッコのイスラーム主義――体制との「共存」という戦略[白谷望]
Ⅰ はじめに
Ⅱ 萌芽――体制によるイスラームの独占と公正開発党の誕生
Ⅲ 発展――政党としての立場の確立
Ⅳ 頂点を極める――政権政党としての公正開発党
Ⅴ おわりに
第13章 シリア紛争とイスラーム主義[髙岡豊]
Ⅰ イスラーム過激派はどこから来たのか?
Ⅱ シリア紛争当事者の勢力分布とその理由
Ⅲ 権威主義体制下のイスラームとその論理
Ⅳ 原因ではなく結果としてのイスラーム過激派
第14章 「ポスト・イスラーム主義」論再考――イスラーム主義は本当に「失敗」したのか?[溝渕正季]
Ⅰ イスラーム主義の「失敗」?
Ⅱ イスラーム主義とは何か
Ⅲ 「ポスト・イスラーム主義」をめぐる論争
Ⅳ おわりに――「アラブの春」以降の展開を踏まえて
あとがき
前書きなど
はしがき――下から目線の研究
(…前略…)
本書の構成と各章の概要は以下の通りである。
第Ⅰ部は、歴史研究の方法論を軸とする論考群である。第1章(野口)は、11世紀から12世紀にかけてイベリア半島や北アフリカに版図を広げたムラービト朝が異教徒に対するジハードを遂行して自らの支配を正当化した問題について考察する。(……)第2章(関)は、20世紀初頭にモロッコ北部のリーフ地方で発生したスペインに対する反乱であるリーフ戦争と、その指導者であるアブドゥルカリームに着目した論考である。(……)第3章(渡邊)は、19世紀以降のアルジェリアにおけるイスラーム改革主義運動についての論考である。(……)第4章(中村)は、アルジェリアにおけるベルベル人の民族意識の形成や発展についての論考である。(……)
第Ⅱ部は、歴史学を主な方法論としつつ、よりナショナリズムを重視した論考群である。第5章(私市)は、アルジェ近郊の伝統的教育機関で学ぶ無名の若者たちが1948年の一時期に手作りで刊行・回覧した新聞に着目した論考である。(……)第6章(三代川)は、日本でもよく知られているエジプトのピラミッドやスフィンクスのような文化遺産に着目し、エジプトのナショナリズムについて論じる論考である。(……)第7章(登利谷)は、アフガニスタンの近代化の過程で進められた、パシュトー語の国語化政策の中でのパシュトゥー語文学・文芸に着目した論考である。(……)
第Ⅲ部は、現代の中東やイスラームにまつわる諸問題に着目した論考群である。第8章(岩坂)は、トルコ軍のイスラーム観、世俗主義観についての論考である。(……)第9章(金谷)は、2011年以降のエジプトにおける民衆の抗議行動が、どのような政治的帰結をもたらしたのかという問題についての論考である。(……)第10章(高橋)は、現代のアメリカで活動する聖者崇敬団体に焦点を当てた論考である。(……)第11章(堀場)は、タイの深南部のムスリムを主体とする紛争についての論考である。(……)
第Ⅳ部は、イスラーム主義運動やその団体に焦点を当てた論考群である。イスラーム主義とは、特に近代以降に生まれた、イスラーム法によって秩序付けられた国家(ウンマ)を建設しようとする政治・社会・文化運動である。第12章(白谷)は、モロッコのイスラーム主義運動が、政権与党となり一応安定した政権運営をしている点に着目し、彼らの「戦略」を考察した論考である。(……)第13章(髙岡)は、シリアにおけるイスラーム主義運動の発展やアサド政権をはじめとする政府との関係を分析し、2011年以降の紛争で台頭したイスラーム過激派の基盤が、シリア社会にどの程度存在しているのかを考察する論考である。(……)第14章(溝渕)は、「アラブの春」後に政権を獲得したものの、失敗や挫折に直面したイスラーム主義運動に着目し、その将来を展望する論考である。(……)