目次
はじめに(高橋基泰・山口由等)
第1部 オリエント編
第1章 わが国における銀行の信託業務とその展開——英米との比較を中心に(安倍惇)
はじめに
金融自由化と銀行信託業務の新展開
「信託二法」と信託制度・信託業
英米の信託とその特徴
わが国の信託の特徴とその展開
むすびに代えて
第2章 明治初期における日本ギルド論(井川克彦)
はじめに
「日本のギルド」
「日本ギルド」と洋銀券発行
「日本ギルド」と「外国送り荷」取引
おわりに
第3章 戦前期日本の不動産業と信託会社——信用における伝統と近代化(山口由等)
はじめに——不動産市場と信用
伝統と近代化——家守・差配人から信託へ
信託法時代の信託会社と不動産業務
おわりに
第4章 韓国における庶民金融の制度化——無尽から国民銀行へ(李明輝)
はじめに
無尽と契
解放直後の無尽と契
国民銀行の設立と無尽の吸収
庶民向け金融機関としての国民銀行
結論
第5章 中国における庶民金融の実態と変容——錯綜する「伝統」と「革新」のはざまで(陳捷・松井隆幸)
はじめに——問題の提起
中国の宗族内部の金の移動
人間のネットワークと金融の関係
中国の庶民金融機構
むすび
第2部 オクシデント編
第6章 グローバル経済・市場の信用とリスク評価(大田英明)
はじめに
エマージング諸国の格付け変遷
格付けと当該国の総合的リスク評価
今後の展望と課題——「適切な評価」に向けて
結論——各国の適切な信用度評価のために
第7章 アメリカ式ノン・リコース・ファイナンスの源流——銀行のローン・セール業務を中心に(掛下達郎)
はじめに——対象と視角
リコース・ファイナンスの歴史
ローン・セール業務における普及
アセット・バック証券への波及
むすびにかえて
第8章 グローバル化する自国通貨への対抗運動——イギリスのソーシャル・クレジット運動と現代のLETS(松永達)
はじめに
ソーシャル・クレジット運動の経緯
LETSの登場とそのメカニズム
LETSの展開と人々の組織化
LETSの活動の実態
おわりに
第9章 ドイツベンチャー企業の発展と資金調達問題——ドイツの中小企業とベンチャー企業との比較を中心にして(井藤正信)
はじめに
ドイツ中小企業発展の歴史的経緯とベンチャー企業の誕生
ドイツベンチャー企業成長の背景
ドイツベンチャー企業の特質
ドイツベンチャー企業の資金調達——間接金融から直接金融への模索
おわりに
第10章 イギリスにおける遺言信託形成の土壌——婦人遺言者を中心にして(高橋基泰)
はじめに
女性と遺言書——研究史概観
資料
遺言書残存数の全般的傾向
女性による遺言書——カンタベリおよびヨーク両大司教管区裁判所の状況
女性遺言者とその社会的背景への展望
論点——寡婦・未婚女性・妻の割合
むすびにかえて
第11章 欧州統合の軌跡とEUの欧州化——多元的空間における「結束」、「摩擦」そして「和解」(松井隆幸)
はじめに
統合理論からみた欧州統合の軌跡
多元的空間の拡大と欧州化
むすびにかえて
あとがき
索引
編著者・執筆者紹介
前書きなど
あとがき
本書は、愛媛大学法文学部総合政策学科部局長裁量経費に基づく研究プロジェクト「グローバル社会における信用と信頼のネットワーク——組織と地域」の研究成果をまとめ上げたものである。
本研究プロジェクトは、「はじめに」でも言及しているように、その母体である国際比較研究会のこれまでの長い研究活動を背景に、定例研究会を通じて執筆分担者による研究報告を行うなどして、同研究会の機関誌『国際比較研究』の研究叢書として刊行の準備を進めてきた。われわれの長い歳月にわたる研究成果が、今回このような形で一冊の書物として出版できたことは非常に喜ばしいことであり、また長年共同研究に携わってきた研究仲間の文字どおり「信用」と「信頼」による結束の賜物と言っても過言ではない。
さて本書は、オリエント(東洋)編とオクシデント(西洋)編の二つから構成されている。といっても、なぜオリエントでありオクシデントであるのか、そしてこの点こそわれわれが最も苦慮した点でもあるが、正直なところ、現段階では明快に答えることはできない。われわれの関心は、これまでもっぱら「組織」と「地域」に向けられてきた。そして本書では、主たる対象領域としてアジア地域と欧米地域における信用と信頼のネットワークに焦点をあててきた。しかし、本書を書き終えて、それぞれの地域においても国ごとに制度的な組織基盤が相違しているため、当該地域の地域性つまり地域の特異性とそれに基づく組織のあり方を十分理解することのむずかしさをわれわれは痛感している。しかしそれでも、オリエントとオクシデントを特徴づける東洋的ないしは西洋的な組織形成基盤を規定しているものは何であるかを各章の執筆担当者は切磋琢磨しながら綴っている。この点については、読者の方がたのご判断に委ねることになるが、本書を読み終えて、なるほどと思わせるような両地域の地域性が醸し出されていることを読者の方がたに汲み取っていただけたならば幸甚である。
このように本書は、研究対象領域としてアジアと欧米に焦点をあてた庶民および地域レベルでの組織研究であるが、両地域の地域性・人間組織のあり方を単純比較して容易に理解できるとは思っていない。ましてや各地域においてでさえ国ごとに制度的な組織基盤が異なっているのが実情である。それゆえ、近隣周辺諸国間であれ遠く離れた異文化地域間であれ、人間生活および組織の根底をなす信頼・信用へのアプローチもその糸口は相互理解にあり、少なくとも理解しようという姿勢が肝要であろう。また、信用と信頼のネットワークに基づく制度的基盤を地域レベルで検証・追究した組織研究の試みは、将来的に独自の新たな地域政策モデルの構築にとっても欠かせない一研究であり、その意味においても本書の有用性は大きいものと自負しており、何らかの一助となることを願ってやまない。
いずれにしても、本書によってグローバル社会の中で国や地域の人びとの信用・信頼のネットワークが、いかに地域の重要な制度的基盤となっているかが明らかにされたように思われる。同時に、格差がますます拡大し強者の論理が貫徹するグローバル社会において、信用と信頼のネットワークの重要性がますます増してきたこと、さらに我が国でも賞味期限の改ざんなどの偽装問題をはじめ何かと「偽」にまつわる不祥事の多い昨今、日常生活において信頼と信用がなによりであると身にしみて感じている人も多いことであろう。