目次
はじめに(戒能民江)
第1章 救援現場から見た人身売買の実態
1 国内民間シェルターからの視点
1 民間シェルターから見える日本社会の人身売買の実態(大津恵子)
2 保護をもとめた女性たちの現実(武藤かおり)
2 送り出し国側からの視点
1 フィリピン側救援から見た女性たちが抱える問題(上内鏡子)
2 タイに帰国した女性たちの課題(斉藤百合子)
第2章 国際的視点から見る法整備
1 人身売買禁止議定書と国連人権高等弁務官による指針(米田眞澄)
2 アジア諸国の人身売買に関する法整備の取り組み(藤本伸樹)
第3章 あるべき法制度に向けての提言
1 国内法制度をどう変えるべきか(吉田容子)
2 被害者の保護・支援施策の提言——被害からの真の回復のために(青木理恵子)
第4章 人身売買の根絶に向けたNGOネットワーク——JNATIP(玉井桂子)
おわりに(吉田容子)
資料編
人身売買禁止議定書
UNHCHR報告書
前書きなど
おわりに 私たちが日本の性関連産業で働く外国人女性の問題に気づき、その問題に取り組んでから、長い人では一五年以上になる。深刻な被害に遭った女性たちを前に、十分な保護・支援もできない現状への怒りと、その日本社会を変えられないもどかしさを感じてきた。一方、日本の多くの人々は、たまにこれら外国人女性がらみの事件が報道されても、自分たちには関係がないこととしてほとんど関心を示してこなかった。 しかし、国際社会では、早くからこの問題が重要な人権課題として認識されてきた。日本においても、ここ一〜二年、メディアの報道等により、「人身売買」といういささか古色を帯びた言葉で表現される問題が、実は極めて現代的な問題であることが次第に知られるようになり、日本が世界有数の人身売買受け入れ大国であることも報道されるようになった。 けれども、一体何がどう問題なのか、なぜこのような闇のビジネスがかくも隆盛のまま野放しにされているのか、日本および国際社会のあり方がどのようにこの問題とつながっているのか、そして私たちの生活とどのようにつながっているのか、私たちは何をしなければならないのか等々については、残念ながら十分な理解と認識があるわけではない。 日本政府は、国際社会から繰り返し批判を受け、二〇〇四年初めから対策の検討を始め、二〇〇五年には人身売買禁止議定書の批准を目指している。政府が検討したこの対策が不十分であることは、本書に繰り返し指摘したとおりである。複雑かつ巧妙に絡みあう背景を伴う人身売買ビジネスを根絶し、十分な被害者保護・支援を行うためには、専門的かつ継続的な対策が不可欠であり、それを支える法とこれに基づく十分な体制が必要である。これらを抜きに、政府主導で不十分な「対策」がとられ、実際は漫然と被害が放置されることを私たちは危惧している。 本書は、多くの日本の人々にこの現状と日本が取り組むべき課題を知っていただくために、急遽出版することになったものである。執筆者はいずれもJNATIP(人身売買禁止ネットワーク)に参加し、それぞれの立場からこの問題に取り組んでおり、少しでも多くの方に基本的な情報を提供し実効性ある対策の実現に協力していただきたいという思いで執筆した。事態が急速に動いている中での出版であり、内容的には未整理な部分や積み残した課題もあるが、とりあえずのこの問題についての基本的理解の手がかりを提供できたのであれば、幸いである。 二〇〇五年には政府の一応の対策がスタートする。政府は二〇〇四年一二月中旬に人身取引対策行動計画を策定する。現在、未公表であるが、メディア報道にぜひ注目していただきたい。しかし、積み残されるであろう課題は大きく、今後さらに強い関心を持ち、真に実効性ある対策が実現するまで行動を続けていかなければならない。 本書を通して、多くの方々がこの問題について理解し、自らの問題として考えてくださることを願っている。二〇〇四年一一月二八日 執筆者を代表して 吉田 容子