目次
Ⅰ はじめまして
週に一度の日常/はじめまして/自立生活の介助、トラブルとコンフリクトについて/あらためまして
Ⅱ ある障害者の生活史
――潜り始める直前のひと息 語り始め
0 生まれるまで
勝手に家を出て、突然帰ってくる/「後継ぎ」として「この体」で生まれる/笑いで締めくくる
1 おおっぴらにしちゃった
近所の友だちと遊ぶ/おばあちゃんの英才教育/地域の学校に通う
2 いらない存在、ではない
ひとりぼっちになる/このままでいいんだねって/少しはこの体が動いたほうがいい/ここで俺の人生終わるのか/施設に入るということ/「障害者」としての自覚
――ひと呼吸をおく 語りの中断
生活史を聴くということ/「障害」の経験への接近
3 からだを曝け出す
何の問題もなく振られる/電動車椅子に乗る/東京に出る/蜂の会/世田谷ボランティア連絡協議会/ハンディキャブ/夜と夜の夜
4 みんなと、ひとりで生きていく
太陽の市場/エド・ロング、HANDS世田谷/みんなの広場、介助者の死/母の転倒・父の死・自立生活
5 バスはみんな乗れないと
乗車拒否/東急バス闘争の始まり/壁をなくす会/ノンステップバス運動・再び介助者の死
6 血はつながっていないけれど
感覚麻痺・母の介護・第一線から退く/重くなる「障害」・入院生活・母の死/水俣演劇ワークショップ・重度訪問介護制度/人と関わる/孫のこと
――水面に上がった直後のひと息 語りおわり
Ⅲ ひらいていくこと
「みんなにショックを与える上田要の始まり」ということ/ひらいていくモトム/「家族」について
上田さん年表
――終わりのあとに
主要参考文献
あとがき
前書きなど
介助者は「お疲れ様でーす」と言いながら、ダイニングで私とすれ違って上田さんの家を後にする。私も「お疲れ様でーす」と言いながら左手の部屋に入り、ベッドの上にいる上田さんに「こんばんはー」ともう一度挨拶をする。
「こ ん ば ん ゔ ぁ ー」
上田さんは、喉の奥から全身で音を絞り出すようにして返事をくれる。私はもう一度「こんばんはー上田さん」と、リュックを置きながら返事をさらに返す。
上田さんは、いつもベッドの右端で右を向いて寝ている。寝返りを打つことはない。体が硬直して動かないのだ。私はその横に折り畳み式の椅子を持ってきて、腰を掛ける。これが介助者と上田さんの基本的な構図である。
ーー「はじめまして」より
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「…なんでわざわざね、「あんたのおかげで青春を味わえた」なんてさ。健常者側から言えばさ、なにそれって話になるでしょ。だってわざわざ言う人っていないじゃないですか。いますか? ね。
そのまさに遺言みたいに俺にぶつけてきたことにさ、彼も多分そう(遺言のつもり)だったと思う。(重度身体障害者療護)施設を出て初めて女の子と出会ったりしてったらしいのね。酒も飲み、病気もし、活動もしたということで、初めて青春みたいなものを味わえた的な想いを込めて、俺に言ったんだと思うのね。
その「あんたのおかげで青春を味わえたよ」って言葉が、俺の背中にずしーんと覆い被さってきてさ、その後の活動の原動力になったかなと、今でも思ってる。」
――上田要さんの語りより