前書きなど
本書は、好評をいただいているVOAリスニング・シリーズの第3弾で、英語経済ニュースの聞き取り能力の向上を目的としています。実用英語検定2級（STEP 2nd grade）,TOEICのBレベル（730から860）以上の英語学習者、とりわけビジネス現場の第一線で働き、英語を必要としている方々や、これからMBA留学を考えている方々が対象です。それらの人々のために、英語経済ニュースを聞き取るための実践トレーニングと関連語彙の集中学習、さらに最新の経済メカニズムと経営理論を理解するための【英語プラスα】の知識を身につけることができる学習プログラムを組んでいます。
ビジネス英語に関する教材はたくさん市販されていますが、それらのほとんどはビジネス現場での発信技能を高めるためのダイアローグ（対話）用のフレーズ集です。証券市場や景気動向など、ビジネスの現場で重要性の高いビジネス情報の聞き取りを扱ったものは少なく、学習者の需要を十分に満たしているとは言えません。
本書に先行するVOAリスニング教材（「VOA英語ニュース・リスニング初挑戦」「VOA英語ニュース・パワーリスニング」）では、ビジネス関連ニュースを含め、あらゆる分野のニュースを盛り込みましたが、本書ではビジネス（経済、金融市場、通商、経営と消費、雇用）に的を絞り、英語を聞きながらビジネスの専門知識も身につけられるように用語解説を充実させました。ビジネス英語のリスニングは、語彙力、文法力、構文力に加えて、ビジネスについてのしっかりした背景知識が求められます。本書は、その点について十分学習者の方々の必要に応えられる内容になっていると自負しております。
ビジネスのグローバル化とインターネットの発達により、現代の実用英語では、会話などの音声中心の技能に偏重したものではなく、電子メールの速読速解と返答を速書する技能まで含めた、より広範囲に及ぶバランスのとれた技能習得が求められています。私の専門は第二言語習得（SLA:Second Language Acquisition）ですが、これまでの研究から上級レベル（英語検定1級、TOEIC900点、旧TOEFL600点以上）に達した英語学習者の多くが、英語技能の中で最大の難関はリスニングであると考えていることが判明しています。英語学習に真剣に取り組み、執念のライフワークにしている人ほど、リスニングの習得の難しさを痛感しているようです。
英語学習全般に言えることですが、特にリスニングについては、もうこれで十分という限界はないものとお考えください。会話のように一対一の関係で行われ、受信側の理解に合わせて発信側が歩み寄ってくれる対人コミュニケーションに慣れることは始めの一歩にすぎません。一定のまとまりのニュースや講義などの聞き取り、さらにネイティブ同士の対話を理解するために洋画の聞き取り、それに満足できない人は最終的には洋楽の聞き取りに至るまで、次なるステップがいくらでも待ち構えています。順調にステップ・アップしていくためには、安易な途中休憩は許されません。気を抜かず、目標に向かってひたすら前進してください。
本書はこれまで同様、大学の授業と、私が主宰する妥協のない英語学習集団「時事英語研究会」（MEC:Media English Circle）で繰り返し使用し、そこから得たフィードバックをもとに練り上げて完成させました。現場の審査を経て評価を受けた教材ですから、安心してお使いいただけます。本書のトランスクリプト及びタスクで使用されている英文の最終原稿は、小樽商科大学言語センター助教授で言語学博士のShawn Clankie先生（米国）と北海学園大学人文学部専任講師のLorne Kirkwold先生（カナダ）にチェックをしていただきました。また、ビジネス語彙解説については、小樽商科大学商学部助教授で経営学専門の玉井健一先生に総点検をお願いしました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。最後に、いつもながら本書の構成、タスクの種類、使用データの選択について助言をいただいた（株）語研の奥村民夫氏に心よりお礼を申し上げます。
緑丘より春の日差し眩しい日本海を眺めて
小樽商科大学言語センター助教授
小林敏彦
