前書きなど
推定千年ほど前に先住民マオリが住みつき、一九世紀後半からはヨーロッパ人の本格的な入植が始まったニュージーランド。推定一億年前にゴンドワナ大陸から分離したことで独特の生物相、植物相を保ち続けてきた長い期間からすれば、ほんの一瞬とも言える短期間で、その自然に深刻な影響をもたらしてしまった苦い歴史をもつ。
牧場を始めるため森を切り開き、牧草地を一気に拡大した一方で、豊かな島の固有の鳥が生息地を奪われ、中には絶滅してしまった鳥もいる。そういう不幸な歴史を顧みて、元に戻そうという試みが各地で始まっており、モトウイヘも、そのほんの一例だ。
人類が地球上を移動して開発も進めた歴史をふりかえりつつ、地球のあちこちに思いを馳せてみると、同様な過ちはニュージーランドに限らないことに気がつく。もっとひどい国のほうが多いだろう。日本でも例えば、沖縄でその実例がたくさんあり、いまも悪い方に進行中だ。
「開発が悪いのではありません。経済を活性化し、生活を豊かにしてくれます。やりすぎがいけないのであって、バランスが大事なのです」。ニュージーランドの観光地で何度も聞いた。
「良好な環境を次の世代に残す、と言いますが、それは間違いであり、おこがましい。環境と言うのは、私たちが将来の世代から借りているものなのです」。マオリに教わったことだ。
こうした目で見ると、モトウイヘ島はじめ、これまで紹介してきたニュージーランド各地の試みは、これ以上の自然破壊にストップをかけ、元に戻そうとするお手本なのだと、つくづく思う。二〇〇八年七月、北海道・洞爺湖に世界の首脳が集まっても遠い先の理念でしか一致できなかったことを思うと、地味ながら、とっくに動き出している人々のほうがよっぽど未来に希望と可能性をもたらしてくれそうではないか。
モトウイヘ島でサドルバックが放たれた日、「きょうは地域の人々の力で自然の回復を成し遂げた模範になりました。どの人にも共通の利益をもたらすことでしょう」と書かれた自然保護省の資料が配られた。
二〇〇一年から毎年のように訪ねているニュージーランド。そのたびに自然や環境を守ろうとして動いている人々に出会う。