目次
1 スポーツカウンセリングの特徴
2 アスリートがカウンセリングルームを訪れるとき
3 アスリートがカウンセラーの前で「語る」ことの意味
4 トップアスリートの精神特性
5 試合で実力発揮できないアスリート
6 アスリートの語る「身体」とこころ
7 トップチームでのカウンセリングアプローチ
8 思春期にあるトップアスリートへの心理サポートから
9 大学運動部におけるスポーツカウンセリング
10 カウンセリングルームからソーシャルサポートの獲得
11 メンタルトレーニングとカウンセリングの連携
12 スポーツカウンセリングの課題と展望
前書きなど
アスリートの心理サポートの現場では、「心理スキルの指導」「心理的問題の解決」「競技生活の支援」「競技現場での助言」といった心理教育的側面からの取り組みが多くなされている。そして、そこでのアプローチの方法として、一般的には、競技力向上や実力発揮を目的とした心理スキルの指導を行うメンタルトレーニングあるいは心理スキルトレーニングと、競技生活でアスリートが抱えた心理的問題の解決に資するとされるスポーツカウンセリングに大別されることが多いようである。しかしながら、本書を読み進めていく中で、読者はこのような分類あるいは棲み分けへの修正を迫られるのに気づくはずである。
アスリートやコーチは、心理面のサポート機関の多くが、メンタルトレーニング指導を主要な役割としていると受け止めがちではないだろうか。しかしながら、スポーツカウンセリングの受け入れ窓口は確実に増えてきており、現在は体育学部をかかえる大学内に常設された相談機関、国立スポーツ科学センター(JISS)・心理部門などのスポーツ研究施設、一部の心療内科、そしてスポーツカウンセリングを専門とする大学教員あるいは私的な開業による個別相談窓口などがある。各々の窓口の特色とそこへ訪れる対象者の特徴から、心理教育、相談、心理治療的関わりまで、内容は多岐にわたっている。少なくとも、「カウンセリングは心理的問題の改善」であるとの捉え方ではなく、もっとアスリートの幅広いニーズにカウンセリングルームが対応している現状にあるのは間違いない。本書の執筆者たちは、さまざまな窓口で臨床の場を踏んでいるスポーツカウンセラーである。
各執筆者は、日常的にケース検討会等で顔を合わせ、お互いの相談事例について意見を交わし合ってきている。そしてカウンセリングにおける寄って立つ立場が比較的重なり合っている者たちとも言える。アスリートとのカウンセリングでわれわれは、共通して、彼らのこころの充実(こころの広がり・深まり)を目指しているとも言える。
各執筆者には、事例を踏まえながら、アスリートのカウンセリング現場での経験に基づき、どのような問題がどのように扱われ、そしてそこから何が見えてくるのかを語っていただいている。それによって、スポーツカウンセリングの場で何が起こっているのかを読者に理解していただくと同時に、現場で体力、技術面からの指導にあたっておられる人たちに対しても、アスリートへの関わり方について示唆できることを願った。
本書が競技生活の充実や指導現場での一助となることを願っている。(序文より)