目次
グラウンデッド・セオリー・アプローチ 改訂版 目次
改訂版にあたって
1 グラウンデッド・セオリー・アプローチの特徴
1-1 グラウンデッド・セオリー・アプローチとはなにか
(1)グラウンデッド・セオリー・アプローチが把握しようとするもの
(2)分析の中核となるプロパティとディメンション
1-2 データに根ざした理論
(1)グラウンデッド・セオリーにおける理論
(2)理論の構造
1-3 グラウンデッド・セオリー・アプローチの長所と弱点
(1)グラウンデッド・セオリー・アプローチの長所
(2)グラウンデッド・セオリー・アプローチの弱点
(3)グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いる際の留意事項
2 データ分析に至るまで
2-1 データ収集をはじめるまで
(1)先行研究論文のクリティーク
(2)リサーチクエスチョン
2-2 リッチなデータの収集
(1)分析対象にするもの
(2)収集すべきデータ
(3)データの評価
3 データ分析のスタート
3-1 分析の概要
3-2 データの読み込み
3-3 データの切片化
3-4 コーディング
(1)オープン・コーディング
(2)アキシャル・コーディング
(3)セレクティブ・コーディング
4 プロパティとディメンションを用いた概念の把握
4-1 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける概念
(1)概念の種類
(2)現象と概念
4-2 プロパティとディメンションの役割
(1)概念抽出の土台づくり
(2)カテゴリーを把握するヒントの提供
(3)カテゴリー同士の関係づけ
(4)変化パターンの表示
(5)データ解釈の説明
4-3 概念の把握
(1)概念名のつけ方
(2)ラベルの把握まで
(3)カテゴリーの把握
5 プロパティとディメンションを増やすための技法
5-1 問いを立てる
5-2 比較
(1)データ同士の比較
(2)理論的比較
5-3 メモ
(1)いつ書くのか
(2)なにを書くのか
(3)どう保存するのか
(4)メモの例
5-4 理論的サンプリングと理論的飽和
(1)理論的サンプリング
(2)理論的サンプリングができないとき
(3)理論的飽和にたどりつけないとき
5-5 交互におこなうデータ収集と分析
6 理論を生みだす
6-1 カテゴリーの関連づけ
(1)文脈の把握
(2)パラダイム
(3)カテゴリー関連図
(4)ストーリーライン
(5)カテゴリー関連統合図
6-2 アブダクション
6-3 例外例のあつかい
7 さいごの詰め
7-1 なにをどうおこなったか
(1)倫理的配慮
(2)研究協力者
(3)データ収集の方法
(4)データの数
(5)分析の手順
(6)分析の妥当性
7-2 結果としてわかったこと
(1)新しい発見はなにか
(2)文献検討結果の反映
(3)カテゴリー抽出の経過
(4)カテゴリーの説明
(5)カテゴリー同士の関係
(6)現象名
(7)理論的比較と理論的サンプリング
(8)理論の構造とプロセス
(9)プロセスの多様性
(10)図と表
(11)現実場面への理論の適応
(12)理論の飽和
(13)データの出し方
(14)研究の限界
(15)今後の課題
8 よくある質問と答え
おわりに
文献
索引
前書きなど
グラウンデッド・セオリー・アプローチ 改訂版 改訂版にあたって
質的研究を、勘やセンスだけでおこなえるものだと誤解している方が少なくないのですが、それらだけで概念を正確に把握することは難しいと思います。もちろん勘やセンスは大切ですが、それは分析の基礎となる知識や技法を身につけた上での話です。概念を抽出したり、名前を付けたり、概念どうしの関係を突きとめたりという一連の分析作業は、じつは定式化された技法を組み合わせたものです。この本では、それらの技法を紹介します。
紹介する技法は、『ストラウス版のグラウンデッド・セオリー・アプローチ』を基盤にしつつ変更した方が使い勝手が良くなると思う部分に修正をくわえたバージョンです。大きな変更点としては、 プロパティとディメンションを軸にした分析をオリジナル版以上に強調したことと、カテゴリー関連図を描くことによって現象を把握するという技法をくわえたことがあります。
グラウンデッド・セオリー・アプローチは、現象を構成する複数のカテゴリー(概念)を把握し、カテゴリー同士の位置関係を明確にすることによって理論を作り上げようとする方法です。カテゴリーはデータの中に目に見える形で転がっているわけではないので、プロパティとディメンションという手がかりを使って把握します。プロパティは分析者の視点を示すもの、ディメンションはプロパティから見た概念の範囲を示すものです。
プロパティとディメンションを用いてカテゴリーを把握したら、続いてカテゴリー同士をプロパティとディメンションで結びつけることによって変化のプロセスを示したカテゴリー関連図を描いて現象を把握します。カテゴリーの関連を可視化することによって、解釈の根拠を論理的に示し、分析者の思考の道筋を他者と共有できます。くわえて、ディメンションの位置が変化したときに、カテゴリー同士の関係がどう変わるのかというプロセスまでも推測することができます。つまり、プロパティとディメンションによって、従来、分析作業の中でブラックボックスと呼ばれていたものの一部が、他者と共有できるようになるわけです。
本書は8章で構成されています。まず、1章でグラウンデッド・セオリー・アプローチの大まかな見取り図を示し、2章では先行研究のクリティークを基にしてリサーチクエスチョンを立て、データ収集をおこなうまでの作業を説明します。
3章から6章までには分析の方法を紹介します。まず3章では分析の概要を、4章ではグラウンデッド・セオリー・アプローチで用いる概念と、それらを使って現象をどう把握するのかにくわえ、プロパティとディメンションが担う役割を説明します。続く5章ではプロパティとディメンションを増やすための技法を説明し、6章ではプロパティとディメンションを用いてカテゴリーを関連づけ、理論を文章にするまでの流れを説明します。
さいごに、7章ではまとめあげた研究結果を投稿する前の確認ポイントを、8章では全体のまとめもかねて、よくある質問と答えを紹介します。
本書の第1版は2006年に出版されました。ちょうど10年前です。この小さな本は、グラウンデッド・セオリー・アプローチの入門書として、その時点での私の知識と経験をまとめたものでした。その後、ゼミや研究を続ける中で変更したいと思う部分が生じ、ストラウス先生がおっしゃっていたとおり、研究法は変わり続けるものだなあと実感しました。新曜社の塩浦?社長には増刷の度に小さな修正をお願いしましたが、今回、大幅な書き替えの機会をいただいたことに心より感謝いたします。
「学問とは天に輝く太陽のようなもの、目を細めて見つめても究められはしない」(シェイクスピア)。グラウンデッド・セオリー・アプローチも、簡単に習得できるようなものではないと思いますが、究めやすくする方法はあると思います。その役割をこの本に託しました。この本を読んだ後、グラウンデッド・セオリー・アプローチを使ってみようかなという方が一人でも増えれば、とても嬉しく思います。
2016年立夏
戈木クレイグヒル 滋子