目次
まえがき
Chapter 01 電池を制する者が世界を制する
ポスト・リチウムイオン電池の開発が始まっている
注目され始めたマグネシウム電池
砂糖水でおもちゃを動かせるバイオ電池
Chapter 02 バイオエネルギー新時代
バイオ燃料は環境に負荷をかけない?
オイルを作る藻が世界を救う?
炭化水素を産生するオーランチオキトリウム
田んぼから電気を取り出す
Chapter 03 電気を使わず、モノを冷やす
太陽熱で部屋を涼しく
熱を音に変えて、モノを冷やす
Chapter 04 電力を使わないITデバイス
電力を消費しないハードディスクを実現する
「板バネ」を使った、ナノサイズの演算素子
電池不要の「紙」端末が作るセンサーネットワーク
Chapter 05 生物進化を操る
重イオンビームが生物進化を加速させる
コケが重金属廃水を浄化する
マグロを産むサバが、次世代の漁業を作る
生物学は、「見る」から「作る」へ
Chapter 06 環境に優しい謎の物質たち
98%が水でできたスーパー「こんにゃく」
鉄より強いクモの糸を合成する
光を当てれば回り出す、光プラスチックモーター
Chapter 07 エコな交通機関
街中をジェットコースターが駆け抜ける
物流をプログラミングせよ
Chapter 08 次世代エネルギー
なぜ私たちは石炭や石油を使うのか?
世界の国同士で電力を融通し合う超伝導直流送電網
太陽のエネルギーを媒体に充填して運搬する
アンモニア社会の可能性
マグネシウム循環社会の可能性
あとがき
参考文献
プロフィール
前書きなど
まえがき
いったい「エコ」って、何なのでしょうか?
エコと聞くと、エネルギーを節約する省エネであったり、リサイクルのことをイメージする人が多いのではないかと思います。
省エネやリサイクルの取り組みが重要なのは間違いないでしょう。しかし、世間で声高に叫ばれる「エコ」的なものに、私は少々違和感を覚えずにいられません。
「世界では、何億人という人が水不足で苦しんでいます!」「よし、私たちも水の無駄遣いをやめよう!」
水をムダに使うのはもってのほかです。しかし、日本で節約した水が、遠く離れた異国の地、水不足に苦しむ人々の元に届くわけではありません。
「スーパーでレジ袋をもらうのは環境によくないから、エコバッグよ!」
レジ袋をもらわないけど、自治体指定のゴミ袋は買わなければいけないわけですよね。また、ブランド物の「エコバッグ」に群がる人々という珍現象が起きたのは記憶に新しいところです。
いわゆるエコな活動がすべてムダだとか、省エネやリサイクルなんかする必要なし、と言いたいわけではありません。そういうニヒリズムは「百害あって一利なし」です。
ただ、一般的に使われる「エコ」は、あまりにも狭い、それこそ身の回りの半径1メートルくらいの「エゴ」を満足させるために行なわれているということはないでしょうか?
たいていの人は、他人に「よいこと」をすれば気持ちいいと感じます。誰かほかの偉い人が「よいこと」をしてくれるのを待つのではなく、自分自身で何らかの貢献をするのは、とても気高い行為です。ゴミの分別収集や、家電リサイクルなどという面倒な仕組みがこんなにうまくいっていることを、日本人は誇りに思うべきでしょう。
けれど、私たちは手軽にできる「よいこと」を実行した後、それで自分の責任を果たしたつもりになっていないでしょうか。エコを免罪符にしていないでしょうか。水道の蛇口を閉めただけで、異国の水不足に貢献したような気持ちになるという具合に。何が環境やエネルギー問題の解決につながるかは深く考えずに。
では、何が本当のエコなのか。私たちはいったいどうすべきなのか。
この質問に答えるのは非常に難しいことです。ただし、私たちの社会が目指すべき方向については大まかな方向が見えて来つつあるようです。まず、『脱「ひとり勝ち」文明論』(清水 浩、ミシマ社)で語られたように、太陽エネルギーを高度活用すること。エネルギー消費量の少ない製品への移行、環境負荷が少なくリサイクルしやすい材質を用いることなどです。
だとすると、研究者や技術者でない人の活動は、あまり意味がないように聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。
今の科学技術には何ができ、何ができないのかを知ること。そして、科学技術のもたらす新しい可能性について、想像をめぐらしてみること。迂遠なようですが、一般人の科学への関心が研究への投資を促し、政策を変え、結果的にイノベーションを促進するのではないでしょうか。
日本は科学立国といわれ、最先端の電子機器が街にあふれていますが、はたしてどれほどの人が科学に興味を持ってきたでしょう。責任の一端は、科学者にもありそうです。科学者が研究について正確に表現しようと心がけるほど、一般の人にはどうしても取っつきにくくなってしまいます。
本書はウェブマガジン「WIRED VISION」(http://wiredvision.jp/)の連載「エコ技術研究者に訊く」をベースにしています。この連載では、最先端の研究を行なっている科学者に、筆者が根掘り葉掘り取材しました。研究室の学生なら教授に怒られて単位がもらえなくなるような初歩的な質問にも丁寧に答えていただけたのは、門外漢ならではの強みといえるかもしれません。今回の書籍化にあたり、解説も充実させましたので、専門知識なしでも最先端の研究を楽しんでいただけるのではないかと思います。
「未来にはけっこう希望もあるんじゃないの」
本書を読んで、そう思っていただければ幸いです。
2011年6月
山路達也