紹介
湯浴みは心身の疲れを癒す!
温泉は「アジール」だ。
すなわち「避難所、憩いの場、聖域」なのだ。
古代ギリシアでは、各ポリスの神殿が典型的アジールと認められていた
ことから、その言葉の持つ意味が想像できる。アジールという概念は
「平和の場」とされた浴場、湯屋、さらには温泉と深くかかわっている。
古代ローマ共和政時代から帝国時代にかけて
公共の浴場が市民の娯楽・保養の場として生活に欠かせなくなっていた。
遠征先で温泉を見つければ、先住民がすでに利用していた温泉地を
征服した後、駐屯兵らの慰安と健康のために立派な浴場を設けた。
ローマの入浴慣習はイスラム社会に引き継がれ、
今も日常生活に定着している浴場文化の基である。
キリスト教徒も十字軍遠征を通じ、浴場の価値を再認識し、
ヨーロッパ社会に環流させた。
共同浴場には、民間浴場主が経営していた街の風呂屋のほかに、
農民・村人が共同で費用と労力をかけてこしらえた浴場があった。
風呂の用意が整うと呼び声が周囲に響き渡った。
体をきれいにするだけでなく、魂を清める働きを持つと考えられたのだった。
目次
【内容】
(1章)平和な「アジール」としての湯屋・温泉
(2章)温泉地の原風景を求めて
(3章)平和な中立地帯としての温泉地
(4章)温泉と戦争の出会い
(5章)避難行と戦国実利の先に温泉
(6章)戦時の人々を受け容れた温泉地
(終章)逆手にとられる温泉の平和