紹介
大学卒業後に務めた出版社を退社後、埼玉の食肉会社に入社した著者は、翌日から牛豚の解体を生業に働きはじめる。入社初日から「ここはお前なんかの来るところじゃねえっ!」と怒鳴られたものの、しだいにナイフ捌きをおぼえ、牛の皮剥きに熟達していく。牛を屠る喜びと、屠りの技術を後輩に伝えるまでの屠場での十年の日々。
「職業を選ぶ」「働き続ける」とは、自分の人生にとってどういうことなのか――。
屠畜解体従事者への世間の恥知らずな差別と偏見はあろうと「牛を屠る」仕事は続けるに値する仕事だー―。これから世の中に出て行こうとする若い人たちに向けて、著者最初の小説作品である『生活の設計』以来、一度も書かれなかった屠場仲間の生きざま、差別をめぐる闘い、両親・家族をめぐる葛藤をまじえて描く。芥川賞候補作家による渾身の書き下ろし。
目次
1 働くまで
面接の日
両親
2 屠殺場で働く
怒鳴られた初日
昼食と帰宅
ナイフ
尻尾を取る
牛に移る
牛を叩く
妻
3 作業課の一日
始業前
面皮剥き
エアナイフ
テコマエ
足取り
4 作業課の面々
共通の心性
入社のきっかけ
健康保険証
結婚
余禄
5 大宮市営と畜場の歴史と現在
芝浦VS大宮
F1とガタ牛
オッパイの山
「逃げ屋」と「まくり」
屠殺と屠畜のあいだ
ケガ
6 様々な闘争
賃金をめぐる闘い
将来をめぐる闘い
理由との闘い
偏見との闘い
7 牛との別れ
O-157の衝撃
「生活の設計」が誕生するまで
退社
8 そして屠殺はつづく
[イラスト]佐川光晴が2001年まで働いていた大宮市営と畜場(当時)の牛の作業場