目次
プロローグ
1.在日朝鮮人美術史研究の始まり
2.美術作品へのアプローチと私の視点
3.本書の構成
序章 『在日朝鮮美術家画集』について
1.寸法と色、表題
2.「目次」、「編集委員名簿」、「表紙題字」、「目次・本文」、「原色版 目録」、「写真図版目録」、「発行の辞」
3.「本文」
4.テーマ、モチーフ、写実性
第1章 始動のエネルギー
第1節 固有の経験の蓄積――40年代終盤から53年まで
1.「在日朝鮮美術家協会」結成
2.日本の公募展への参加、美術学校での出会い、美術教師としての活躍
3.漫画家全哲の誕生秘話
第2節 固有の経験の合流――「在日朝鮮美術会」の結成
1.「在日朝鮮美術会」の結成
2.エネルギーの源であった画家金昌徳
第2章 何をどのように創造するのか
第1節 「民族美術」の探求
1.討論の始まり――金昌洛の原体験
2.どのような方法で表現可能なのか――白玲と成利植の模索
第2節 巡回展――開催の喜びとその後
第3章 共通のテーマと写実――討論から制作、そして発表へ
第1節 討論と制作
1.討論
2.制作
テーマ1「在日朝鮮人の生活」
テーマ2「帰国」
テーマ3「南朝鮮の救国闘争」
第2節 展示と手ごたえ
1.九・九展
2.第12回日本アンデパンダン展
3.8・15祖国解放記念美術展
第4章 南北分断を異郷の地で乗り越えた「連立展」
第1節 開催への道程
1.朝鮮半島の分断と在日朝鮮人
2.「連立展」前史
第2節 芸術家の「統一」を目指した活動の軌跡
1.第1回連立展の開催経緯、開催期間、参加団体
2.第2回連立展の開催経緯、開催期間、参加団体
3.出品者と出品作品
第3節 和やかな交流とその急速な冷却
1.相互交流の活性化
2.成功とその余波
第4節 まとめ
第5章 日本人美術家との接点
第1節 個人展の開催と日本の公募展への参加
1.二科会
2.行動美術展
3.日本青年美術家連合
4.日本版画運動協会
5.日本労働漫画倶楽部
6.その他
第2節 日本アンデパンダン展への出品
1.日本美術会の創立
2.日本アンデパンダン展の開催
3.朝鮮人美術家の出品記録
4.出品報告と批評
第3節 美術を通した文化交流を実現した「日朝友好展」
1.開催趣旨、第1回展の様子
2.展覧会報告とその後
第6章 在日朝鮮人美術史をひもとく語り
第1節 手がかり
1.聞き手であり筆者である「私」について
2.聞き取り以外の資料
3.本章の構成
第2節 東京の美術家たち
1.巡り合う美術家たち
2.朝鮮学校の教科書の挿絵にまつわるエピソード
3.エピソードに満ちた大山および下北沢
第3節 大阪及び京都、兵庫の美術家たち
1.美術家への道程と、組織の設立――金熙麗さんご遺族の語り
2.済州4・3事件で目撃した生と死、そして芸術への模索――李景朝さんの語り
3.美術教師青山先生と全和凰先生――河相喆さんの語り
第4節 まとめ
エピローグ
付録 機関誌『朝鮮美術』解題――会員の親睦と旺盛な討論の記録
第1節 1953年と1954年の活動記録――第1号、第2号、第3号の解題
1.新組織誕生の記録――第1号解題
2.世界情勢の把握――第2号解題
3.活動の具体化――第3号解題
まとめ
第2節 1956年と1959年の活動記録――第5号、第6号の解題
1.日本アンデパンダン展への出品と、相互批評――第5号解題
2.民族美術の創造をめぐる理論と批評、そして苦悩の記録――第6号解題
まとめ
第3節 1961年の活動記録――第7号の解題
まとめ
人名解説一覧
参考文献一覧
あとがき
初出一覧
人名索引
前書きなど
プロローグ
(…前略…)
3.本書の構成
次の序章で『在日朝鮮美術家画集』を簡潔に紹介する。この画集は、在日朝鮮人美術家によって編まれ、在日朝鮮人美術家の作品を収めた初めてのものである。在日朝鮮人の50年代の活動を読み解くにあたって基準資料となる。画集の作品や文章を掲載順に見た上で、作品の特徴と画集から読み取れるものを整理する。
第1章「始動のエネルギー」では、45年から53年までの活動を整理する。「在日朝鮮美術家協会」の結成(47年)、教育の場での出会い、「在日朝鮮美術会」の結成(53年)、漫画家である全哲の誕生秘話や、美術家の中心的存在だった金昌徳の作品を確認していきたい。
第2章「何をどのように創造するのか」では、57年前後に見られた朝鮮人美術家の表現の模索、特に金昌洛が考えた「民族美術の創造」を整理し、白玲と成利植の作品を分析する。さらに56年に開催した「巡回展」の情報を整理する。創造と発表の過程で彼/彼女たちが見出したものは何だったのだろうか。
第3章「共通のテーマと写実――討論から制作、そして発表へ」では、第2章の表現の模索から、どのような討論が展開されていたのかを整理した。討論から導き出された創作、特に57年ごろより始まるテーマ制作に注目し、韓東輝、表世鐘、許壎、金熙麗、李哲州、韓宇英、朴日大の作品を分析する。その上で、これらの作品の発表の場と反響を整理したい。
第4章「南北分断を異郷の地で乗り越えた「連立展」」では、61年に開催した「連立展」に注目する。
第5章「日本人美術家との接点」では、日本アンデパンダン展と日朝友好美術展に注目する。
第6章「在日朝鮮美術史をひもとく語り」では関東と関西の美術家たちの証言を整理し、在日朝鮮人美術研究における聞き取りの意義を整理した。
なお、本書の各章については初出となる筆者の研究発表がある。執筆するにあたってその成果を最大限に取り入れ、さらに発展させるよう心がけた。特に発表から時間が経過しているものについては、その後の調査や研究成果を反映させるべく大幅に加筆をしているが、筆者の研究の経過を示すために巻末に初出一覧を掲載しておく。