目次
はじめに:本書のねらい
第1章 コミュニティから幸せを考える意味って?
1 「幸せに生きる」ということとコミュニティ――データを読み取る力
2 社会の個人化とコミュニティの幸せ――「概念」という道具
コラム 大学生にとっての「コミュニティ」
第2章 日本人の幸福感
1 天気のいいところに住むべし!?――幸福感の測り方
2 日本人の幸福感――協調的幸福と個人化の影響
3 人との付き合い方が重要?――主観的幸福感に影響する要因
4 人と広く付き合うこと――一般的信頼
コラム お金ではない……としたら何?
第3章 助け合わない日本人?(1)――利他的行動とボランティア
1 助けられない日本人? 助ける機会がない日本人?
2 利他的行動研究の見地から――助けない、ということ
3 日本のボランティア活動の謎――ウチとソト
4 ボランティア参加者のサポートネットワーク
コラム ヒト以外からのソーシャルサポートはあるの?
第4章 助け合わない日本人?(2)――被援助要請とウチ・ソト文化
1 助けを求められない人たち――援助要請行動の難しさ
2 援助を受ける居心地の悪さ――コミュニティのウチとソトでの違い
3 援助を受けることによる被支配の可能性
4 助けを求めない文化的なふるまい――ハビトゥスと階層性
コラム ゼミでの失敗と助けられる・助ける役割の逆転について
第5章 地域コミュニティの幸せ――地元で暮らすということ
1 地域コミュニティは衰退しているのか――コミュニティ喪失論・存続論・解放論
2 コミュニティの解放と地域暮らしの幸福――地元で暮らすということ
3 地元の息苦しさ
4 ソーシャル・キャピタルの負の側面
コラム 大学生と地域への愛着、幸福
第6章 居場所を考える――子供・若者を締め出す地域コミュニティ
1 「居場所」の価値
2 サードプレイス
3 子供の居場所はどこにあるのか――家庭でもなく学校でもなく
4 「子ども食堂」は子供の居場所になり得るか
5 居場所と社会的スティグマ
コラム 中学・高校生の居場所
第7章 インターネットとコミュニティ
1 オンライン・コミュニティの出現――若者はデジタル・ネイティブなのか
2 SNSでのコミュニティは幸せを生むか
3 オンラインゲームの功罪
4 オンラインゲームで性別を入れ替えてプレイすることの意味
5 ネットコミュニティの積極的意義は見出せるか?――オンラインとオフラインの新しい関係
コラム ボードゲームとコミュニティ
第8章 「当事者」とコミュニティ――LGBTを例に
1 LGBTの人たちの「生きづらさ」
2 LGBTコミュニティはどう定義できるのか――その多次元性・流動性
3 カナダ・トロントのLGBTタウンとコミュニティセンターの事例
4 「トウジシャ」とは誰か――「生きづらさ」の普遍性
コラム トロントのプライド・パレード
第9章 「働くこと」を支える――社会的包摂とコミュニティ
1 これからは物の豊かさよりも心の豊かさ?
2 働くことからの「排除」とWISE
3 コミュニティが「働く」を支えるとき――ネットワーク構築と社会的正義
4 シリアス・レジャーとコミュニティでの幸せ
コラム 職場の幸福づくりのためには?
第10章 コミュニティとトラブル、排除
1 コミュニティがこわされるとき――災害とコミュニティ
2 コミュニティでの“ちょっと困った人”との付き合い方
3 コミュニティからの排除――住民運動とNIMBY
コラム いじめを考える
終章 助け合える幸せなコミュニティをつくるには
1 助け合うコミュニティづくりのヒント――ウチとソト、援助と被援助のカベを壊す
2 みんなで幸せになる方法――コミュニティ・オーガナイジングとアセットベースド・コミュニティ・ディベロップメント
3 パッチワーク型のコミュニティづくり
4 おわりに:「コミュニティのつくりかた」――幸せのシェアの可能性
あとがき
参考文献一覧
前書きなど
はじめに:本書のねらい
(…前略…)
その上で、「コミュニティで人と人とが(あなたと私とが)幸せに生きるには?」ということを追求し、考えていくのがこの本のねらいです。本書では、私の研究成果をご紹介したり、また個人的経験もときには披露しています(また、問題意識をもった経緯から、カナダの事例にも度々ふれていきます)が、関連分野の研究成果を踏まえながら論じていくことが多いと言えるでしょう。そこでは、定説となっている理論を教科書的に学ぶというよりも、社会的にも新しいテーマについて果敢に分析に取り組んでいる研究群を取り扱い、とりあえずこう言えるのではないか、と論じていくスタイルが強いと思います。
そしてそのため、本書の中では、統計的にはこういう傾向がある。あるいは、この調査結果ではこういう可能性がみて取れる、といった、歯切れの悪い表現が多くなると思います。モヤモヤした感じを与えるかもしれませんが、ご了承ください。しかしそもそも、あるひとつの研究結果をもって断定できることというのは、社会学、あるいはそれを含む社会科学という学問領域では、あまりないものなのです。「この調査結果があるから、社会はこうなっているのだ!」と断言しているものは、やや疑ってかかった方がよいでしょう(それはこの本の中でも、言えることです)。
このため、この本は幸福論と銘打っていながら、なかなか「あなた」の幸せの問題にダイレクトに寄り添うことはできないかもしれません。コミュニティの幸福とは何なのか。どうすればそれをつくることができるのか。そうしたことを探求していく中で、皆さんと一緒に、「コミュニティの謎」を解きながら、そこで幸せに暮らしていくための方策を考えていきたいと思います。
また逆に、そうした知見を眺めて、「自分は~ではないから大丈夫だ!」という発想をしてしまうこともあるかもしれません。もちろん内容の受け取り方(感想)は自由なのですが、ほんとうに「大丈夫」かどうかは、誰にもわかりません。これは、詳しくは第1章や第2章で説明する、現代社会の「個人化」という側面が、生活上のリスクを生んでいるからです(リスク社会、とも言います)。
それに、あなたではない「だれか」の生きづらさを知っておくことは、社会全体がちょっとでも優しいものになる第一歩であり、そしてそれはあなたにとっても生きやすくなる可能性があると考えています。袖すり合うも他生の縁、という言葉もありますね。コミュニティで幸せに暮らしていくこととは、あなたの問題でもありながら、あなた以外の人の問題でもあるのです。それは、誰かが幸せになれば別の誰かは不幸になる、というような、「ゼロサム・ゲーム」の世界ではありません。
あなたが幸せならば誰かも幸せになる。コミュニティの幸せとはそうした性質を強くもっています。ともに幸せになっていくのです。
そんな話を、この本を通じて深めていければと思っています。本書は最終章を含め、11章だての内容です。最初から最後へとつながりをもって書かれていますが、それぞれの章は独立しており、どこから読んでも内容は理解できるようになっています。とくに第1章は本書を読み進めるための背景的な問題意識や、心構えのようなことが書いてあるので、やや興味がもちにくい部分もあるかもしれません。そのため、まずは目次をご覧いただいて、興味があるところからお読みいただくことをお勧めします。
(…後略…)