目次
はしがき
序章 本書の背景と目的
第1節 本書の背景と問題意識
第2節 本書における課題
1.多様な人材を含む介護職の専門性に関する先行研究の不足
2.有資格者と無資格者間の境界線の曖昧さ
3.体系化された介護職の人材育成の仕組みの不在
第3節 本書の目的とリサーチ・クエスチョン
1.本書の目的
2.本書のリサーチ・クエスチョンと目標設定
3.本書の構成図
第1章 高齢社会において介護職の専門性が求められる理由
第1節 高度化・複雑化する介護ニーズへ対応する介護職
1.要介護(要支援)認定者数の増加と認知症高齢者の増加
2.看取り介護を受ける高齢者の増加
第2節 法律に基づいて介護サービスを提供する介護職
第3節 考察
第2章 介護職の専門性が強調されてこなかった理由
第1節 介護人材の質的確保に対する政策と実態との乖離
第2節 介護人材の質的確保においての現実的な課題
1.人材不足の課題
2.社会的背景および現状による介護職のイメージの課題
3.多様なルートを経て参入する人材の課題
第3節 考察
第3章 介護職の専門性に関する先行研究の検討
第1節 本章の目的
第2節 介護職の専門性の検討
1.分析の方法及び結果
2.介護職の専門性の構成要素、3つの視点の考察
3.3つの視点から生まれる疑問
第3節 介護定義の変遷の検討
1.手助けやお世話するという「狭義の介護」
2.「狭義の介護」から福祉視点を含む「広義の介護」へ
3.医療的な介護行為を含む心身の状況に応じた「広義の介護」
第4節 考察:介護定義の変遷からみる介護職の専門性の変化
第4章 「求められる専門性」の構成要素の具体化
第1節 本章の目的
第2節 調査概要
1.調査の対象、方法及び期間、倫理的配慮
2.調査票の構成
3.分析の対象者
第3節「求められる専門性」の構成要素の構造化
1.「求められる専門性」の項目の設定
2.「求められる専門性」の因子構造
第4節 考察:「求められる専門性」の意味及び限界
1.「医療的ケア」の意味
2.「気づきを伴う連携」の意味
3.「人間の尊厳」の意味
4.「身体援助」の意味
5.「介護職の基本姿勢」の意味
6.「生活援助」の意味
7.削除された項目の意味からみる因子分析の限界
第5章 介護業務に対する介護職の認識程度
第1節 本章の目的
第2節 介護業務に対する介護職の認識程度の特徴
1.〈専門性を要する〉介護業務に対する介護職の認識程度
2.〈重要である〉介護業務に対する介護職の認識程度
3.〈できる〉介護業務に対する介護職の認識程度
4.介護業務の平均値の差からみられる特徴
第3節 考察
1.「生活援助」に関わる介護業務の機能分化の可能性
2.介護職に必要不可欠な「医療的ケア」に関わる介護業務
3.介護過程の展開における[介護計画の作成・見直し]の重要性
4.介護業務の一環として揃えるべき「介護職の基本姿勢」
第6章 仕事の継続意向と離職意向への影響要因
第1節 本章の目的
第2節 仕事に対する今後の希望の影響要因
1.現在の仕事の満足度に対する考え方
2.働く上での悩み、不安、不満に対する考え方
第3節 考察
1.仕事の継続意向に影響を与える要因
2.仕事の離職意向に影響を与える要因
終章 実践現場における介護職の専門性の向上の方向性
第1節 本書のまとめ
1.介護職に専門性が問われる社会から求められる社会へ
2.「狭義の介護」から「広義の介護」へ
3.介護職(介護業務を行う際)に求められる専門性の構造化
4.介護業務に対する介護職の認識程度の実態
5.職場環境と離職意向・仕事継続意向との関連性
第2節 介護職の職場定着における今後の方向性
1.体系化された介護職の人材育成の仕組みづくりの提案
2.介護職の人材確保(量的確保・質的確保)の方向性に向けた提案
第3節 本書の意義
1.介護業務を行う際に「求められる専門性」の明確化
2.介護職の人材確保(量的確保・質的確保)の方向性
参考文献
補足資料
1.基礎知識の習得程度に差はみられるか
2.介護業務に関する43項目の作成にあたって参考にした資料
3.本書における調査票
あとがき
索引
前書きなど
はしがき
介護分野では介護福祉士有資格者以外にも多様なルートを経て参入する無資格者・未経験者も少なくない。このような状況にありながら、今日においても介護職の専門性はどうあるべきかについて未だ明確にされていない。そのうえ介護職の専門性について社会の関心は低く、介護職全体の社会的評価も低い状況にある。
本書の研究は、「介護人材の質的確保」における政策の課題への疑問から始まった。国の政策では、介護職の人材確保の観点から、質的確保のため介護職の資格の一つである介護福祉士の有資格者を専門性の高い人材として捉えている。国は特定の資格の専門性を図る一方で、なぜその職業である介護職を専門性の高い職業として捉えてこなかったのか。そして介護職の専門性を明確にすることは、なぜ困難であったのだろうか。
現状では、実践現場における介護職は、介護業務を行う際に、どの介護業務に専門性が求められるのか、どの介護業務が重要であるのか、どの介護業務ができるのか等、何をどうすればいいのかが分からない場合が多い。介護職は利用者に提供する介護サービスが適切であるかどうかの判断ができず、自信がないまま介護サービスを提供している状況にある。このことは、介護職の専門性の問題のみならず、介護サービスの質の問題でもある。
そこで筆者は、これからの高度化・複雑化する介護ニーズに対応し、より専門的な介護サービスを提供することを念頭に、介護職の専門性の向上に関する基礎研究を行った。特に、人材不足の課題によって多様なルートを経て参入する人材を投入せざるを得ない現状を踏まえて、介護職の専門性の向上を図ることに注目した。今後も介護人材の不足が深刻化していく中で、介護職の人材確保のみならず、専門性の向上は欠かせない重要な課題となるだろう。専門性の高度化を達成するためには、介護業務においてどのような場面で介護従事者に専門性が求められ、どのような介護業務が重要とされているのかを学術的に明らかにし、効果的に介護人材が育成できる仕組みを構築する必要がある。
効果的な介護人材育成の仕組みを構築するために、本書では実践現場における介護職の専門性の向上に向けて、体系化された介護職の人材育成の仕組みづくりに資する基礎的資料を提示する。また、介護職の人材確保の観点から介護職の職場定着の課題について今後の方向性を提言する。
最後に、本書が介護人材の育成に向けた政策の本来の方向性である「専門性の明確化」や「社会的評価の向上」そして「介護サービスの質の向上」に貢献できることを願っている。