目次
推薦の言葉 社会福祉実践を支える哲学と姿勢[阿部志郎]
日本語版への序 私の思い[フレデリック・G・リーマー]
序章 哲学的基盤の学問的検証
第1章 政治哲学
第1節 哲学的基盤
第2節 福祉国家の出現
第3節 福祉国家のイデオロギー的概念
第4節 政府による介入の範囲
第5節 公的セクターと民間セクターの責任
第6節 分配的正義
第7節 福祉と権利
第8節 共通善と公益の追求
第2章 道徳哲学
第1節 倫理学の性質
第2節 権威に関する疑問
第3節 分配に関する疑問
第4節 実体的な問い
第5節 援助への義務
第6節 倫理学の妥当性
第7節 倫理と徳
第3章 論理学
第1節 論理学の基本
第2節 演繹法についてのさらなる解説
第3節 ソーシャルワークにおける正当な議論
第4節 三段論法の妥当性
第5節 ソーシャルワークにおける論理的な誤り
第6節 論理学と言葉
第7節 定義の役割
第8節 論理学と実践
第4章 認識論
第1節 論争の性質
第2節 哲学的文脈
第3節 経験主義の出現
第4節 ソーシャルワークと実証主義
第5節 実証主義の妥当性
第6節 知識のモデルに向かって
第5章 美学
第1節 美学の性質
第2節 美学:概念的枠組み
第3節 ソーシャルワークにおける批評と評価
第4節 芸術家としてのソーシャルワーカー
第5節 アートと科学としてのソーシャルワーク
終章 ソーシャルワークにおける哲学の位置
監訳者解説[秋山智久]
参考文献
前書きなど
序章 哲学的基盤の学問的検証
(…前略…)
ソーシャルワークの重要な価値の一つは、実践者が人生の重要な課題についてのある種の知をもつ傾向にある。熟練したソーシャルワーカーは、人生の最も抵抗しがたい状況やその状況にあるクライエントの苦闘に立ち向かう。そうした点で、ソーシャルワーカーは多分に哲学的であり、そして賢明でもある。私のここでの目的は、ソーシャルワークにおける核となる哲学的課題を探究し、確認することであり、また実践に対するそれらの関連性を考えることである。詳細は後述するが、専門職が形成された最初の世紀の終わりに近づいているこの時点で、この種の探究はソーシャルワークの歴史において特に重要である。
ソーシャルワークの発展を通して、実践者は知識基盤をより深く広くする注目すべき努力をしてきた。専門職にとっての増大する文献をざっと見渡してさえも、ソーシャルワークの研究者と実践者は、精神疾患、貧困、老齢、犯罪と非行、児童福祉、ヘルスケア、薬物乱用、コミュニティデベロップメント、社会政策、管理行政、事後評価研究といった事象についての知識を次第に付け加えてきた。
ソーシャルワークは、相対的に自らの知識基盤の発達の初期段階にあり、――独自の価値基盤、概念的原理、専門職の実践方法を表しているが――知識がソーシャルワークのさまざまな実践分野(例えば、子どもと家族サービス、精神保健、老齢、へルスケア)と、介入方法(例えば、ケースワーク、グループワーク、コミュニティオーガニゼーション、アドボカシー、リサーチ)などに関して急速に拡大していることは明白である。
しかしながら、この展開において不思議と遅れているのは、専門職が基づく哲学的基盤の学問的検証である。最近、この点については明白に進展があり、特にソーシャルワーク研究と倫理に関する哲学的問題に関してはそうである。しかし、専門職の文献を注意深く再検討すると、この基礎的レベルの探究はよく言っても今始まったばかりであり、かなり穏やかなペースで展開している。
どんな専門職の重要な目的も、使命、方法、概念的志向についての核心的な前提に基づいている。つまり、どの専門職の心の深いところも、哲学的な志向のある目的と視点の表明から成り立っているのである。この『ソーシャルワークの哲学的基盤』の中心的目標は、このような記述の基礎研究を整えるのに役立つことである。
(…後略…)