目次
序――〈チキン・シャック〉のマルクス
マルクスを読め!
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章立て
第一章 古き神々、新しき謎――革命的主体についての覚え書き
普遍的階級
階級戦争の時代
命題
第二章 マルクスの失われた理論――一八四八年のナショナリズムの政治
国民なきナショナリズム
マルクスに反するマルクス
階級とナショナリズム
利害の計算
第三章 来るべき砂漠――クロポトキン、火星、そしてアジアの鼓動
シベリアの探査
アジアと火星の乾燥
病的科学
第四章 誰が箱舟を作るのか?
Ⅰ 知識人の悲観論
Ⅱ 想像力の楽観論
訳者あとがき
解説(宇波彰)
一 はじめに
二 労働運動の意義、階級の問題
三 国家の問題
四 気象変動の問題
五 地球温暖化の問題
六 おわりに
注
索引
前書きなど
解説
一 はじめに
本書の著者マイク・デイヴィスは、すでに始まりつつある二一世紀の状況について、次のような認識を示している。「歴史は二一世紀初頭に、人口の増加と歩調を合わせて職を生み出せず、食料の安定も保証できず、破局的な気候変動に人間の生活環境を適応させることもできない世界経済の中で、完全にひと巡りした」(二一一頁)。この数行に、著者が本書で取り組もうとした問題の所在がはっきりと表現されている。世界の人口は急激に増えつつあるのに、人工知能の発達なども加わって、人間が行なえる仕事が少なくなり、失業者が増え、さまざまな要因から食料が不足している上に、自然的な気候変動と人為的理由による地球温暖化の進行などが重なっている。そのため人類はいまや「黙示録的」というほかはないような、異常なほどの危機に直面しつつある。こうした多様で、しかもきわめて大きな危機こそ、本書において著者がその解決を考えようとした今日的問題にほかならない。このような状況にある現代世界において、つまり非常な危機に直面している今日において、われわれはどうすればいいのか? 著者が試みるのは、基本的には「マルクス、エンゲルスの読み直し」であり、その作業を通じて「彼らの失われてしまった理論」を回復し、定式化することであり、それによって「二一世紀におけるマルクス主義の意義」を確認することである。
そのために本書の第一章は、革命運動の主体としての労働者の問題を扱う。具体的には、マルクス、エンゲルスの理論と一九、二〇世紀における欧米の労働運動の歴史とを同時的に検討し、彼らの理論がどのように「失われて」きたのか、それを「理論」として定式化し、再生するためにはどうすればいいのかということが、この章のテーマになる。第二章は、国家、ナショナリズムの問題をマルクス、エンゲルスの思想を彼らが活躍した時代の状況と重ね合わせて考え直そうとする。その際、著者が特に注目し、高く評価しているのは、イギリスの政治学者エリカ・ベナーのマルクス、エンゲルス論である。第三章は地球上の自然的な気候変動、特に乾燥の問題を人間の「移動」の状況と重ねて論じようとする。そこでは思いがけないことに、ロシアのアナーキストとして知られているピョートル・クロポトキンの地理学、気候論が再検討される。第四章は、最近になって特に論じられることが多くなった、文明化の負の所産である「温室ガス効果」を考察している。これが全四章からなる本書のおおよその骨格である。つまり、今日の緊急の諸問題を多角的・総合的に考えようとするのが、本書のテーマである。
(…後略…)