目次
まえがき
第Ⅰ部 中国・サハリン残留日本人に向き合う
第1章 中国・サハリン残留日本人の歴史
1.明治以降の日本人の海外送出
2.満洲移民
3.樺太移住
4.戦後日本人の送還
5.中国からの引揚げと残留
6.樺太(サハリン)からの引揚げと残留
第2章 中国残留の生活体験
1.中国残留体験Ⅰ――種子島秀子さんの場合
(1)満洲に渡る
(2)敗戦前後
(3)収容所での生活
(4)収容所を出て
(5)当時を振り返って
コラム① 京都廟嶺開拓団の引揚げ体験
2.中国残留体験Ⅱ――猿田勝久さんの場合
(1)満洲に渡る
(2)母も亡くなって
(3)中国での学校生活
(4)中国での暮らしと帰国への思い
(5)永住帰国後の暮らし
コラム② 山本慈照の体験と功績
第3章 サハリン残留の生活体験
1.サハリン残留体験Ⅰ――戸倉冨美さんの場合
(1)樺太での学校生活
(2)敗戦前後
(3)結婚と両親との別れ
(4)帰国への願い
(5)日本の墓
コラム③ サハリン残留日本人女性と小川岟一
2.サハリン残留体験Ⅱ――菅生善一さんの場合
(1)私の少年時代
(2)サハリンでの暮らし
(3)養父のこと、母のこと
(4)本当の父
(5)私の家族と永住帰国
コラム④ 北東アジアに広がる家族
3.サハリン残留・カザフ抑留体験――伊藤實さんの場合
(1)樺太での暮らしと敗戦前後
(2)カザフでの暮らし
(3)日本からの手紙
(4)カザフに戻って
(5)永住帰国
コラム⑤ 抑留の背景と民間人抑留者の苦難
第4章 中国・サハリン帰国者の現在
1.大通高校の取り組みと帰国生徒の現在
2.帰国者を支える教室・学校
3.ある中国帰国者1世の願い
4.韓国に帰国したサハリン残留日本人の事例
(1)寺山八重子さん
(2)松本和子さん
第Ⅱ部 次世代に伝える――学校教育の中で
第5章 中国・サハリン残留日本人学習の展開
1.社会科教科書の中の「中国・サハリン残留」
(1)小・中学校社会科教科書に見る記述の変遷
(2)現行の小・中学校社会科教科書に見る記述の傾向
2.教育(授業)研究の中の「中国・サハリン残留」
3.中国・サハリン残留日本人学習の本質
4.中国・サハリン残留日本人学習のねらい
(1)終戦や戦後を問い直す
(2)植民・戦争・残留体験や帰国後の暮らしを考える
(3)残留日本人の養父母について考える
(4)中国残留朝鮮人について考える
(5)サハリン残留朝鮮人について考える
5.中国・サハリン残留日本人学習の方法
(1)体験を直接に聞く
(2)体験を間接的に聞く
(3)記念館を訪れる
(4)授業(単元)をつくる
6.中国・サハリン残留日本人学習の授業事例
(1)中国残留日本人学習の授業
(2)サハリン残留日本人学習の授業
7.中国・サハリン残留日本人学習の授業実践
(1)小学校での実践
(2)高校での実践
(3)大学での実践
第6章 中国・サハリン残留を取り上げた社会科授業
1.社会科授業づくりの方法
(1)社会科で育てる資質・能力
(2)社会科授業づくりの類型
(3)社会科授業づくりの方法――教材開発型授業の場合
(4)2017年度告示の学習指導要領と社会科授業
2.小学校社会科の授業事例
(1)授業づくりの視点
(2)授業事例Ⅰ――中国残留の場合
(3)授業事例Ⅱ――サハリン残留の場合
3.中学校社会科(歴史的分野)の授業事例
(1)授業づくりの視点
(2)授業事例――中国残留の場合
4.高等学校地理歴史科(歴史総合)の授業事例
(1)授業づくりの視点
(2)授業事例――サハリン残留の場合
資料
資料1 満蒙開拓青少年義勇軍送出の歴史
資料2 満蒙開拓青少年義勇軍の体験――水田克己さんの場合
(1)満洲に渡る
(2)満洲での訓練
(3)ソ連参戦とその後
(4)先生との再会
資料3 中国・サハリン残留に関する小学校社会科教科書の記述
資料4 中国・サハリン残留に関する中学校社会科教科書の記述
あとがき
引用文献・参考文献
前書きなど
まえがき
(…前略…)
本書は二部構成である。「第Ⅰ部 中国・サハリン残留日本人に向き合う」では、まず、中国・サハリン残留日本人の歴史的背景について述べる。明治以降の日本人の海外送出の歴史を概観し、日本からの満洲移民や樺太移住の歴史、戦後日本人の送還について述べたうえで、中国残留とサハリン残留の歴史のあらましを述べる。
次に、1945年前後から現在に至る時間軸の中で、残留日本人の生活体験を紹介する。中国残留については二事例、サハリン残留については三事例を取り上げる。サハリン残留のうち、一事例はカザフ抑留体験でもあり、旧ソ連残留体験でもある。抑留といえば、軍人の抑留を想起するかもしれない。だが、民間人も抑留されていたのであり、軍人以上に帰国が困難で、長い間、置き去りにされていた。ソ連占領下のサハリンで暮らしていた日本の民間人男性が、どのような経緯でカザフに抑留されるようになったのかを紹介する。なお、それぞれの生活体験の後にはコラムを配置し、体験者5名の語りと関わりの深い人物や出来事、様子を紹介している。
最後に、中国・サハリン残留日本人の現在を述べる。取り上げるのは、サハリン帰国者生徒の現状、帰国者を支える教室・学校、帰国者1世の願い、韓国に帰国したサハリン残留日本人の体験であり、中国・サハリン残留日本人の現在を様々な角度から紹介する。
続いて「第Ⅱ部 次世代に伝える――学校教育の中で」ではまず、社会科教科書や教育(授業)研究の中で「中国・サハリン残留」がどのように取り上げられてきたのかを明らかにする。そのうえで、中国・サハリン残留日本人学習の事例を紹介する。具体的には、中国・サハリン残留日本人学習の本質やねらい、方法、授業事例を述べ、筆者が小学校や高校、大学で試みた、中国・サハリン残留日本人学習の実践を紹介する。続いて、中国・サハリン残留を取り上げた社会科授業づくりの方法について述べ、小学校社会科の授業事例、中学校社会科(歴史的分野)の授業事例、高等学校地歴科(歴史総合)の授業事例を紹介する。
筆者が残留体験や満洲移民と向き合う中で、直視しなければならないと思ったのは、満蒙開拓青少年義勇軍の体験である。義勇軍に参加した人の多くは、今の中学生・高校生の年齢にあたり、多くの若い命が現地で亡くなっている。学校教育の中で満洲移民を考えるなら、かつての学校で何が起こったのかを知る必要があるのではないか。社会科授業での活用を視野に入れ、義勇軍送出の歴史と体験を「資料1」「資料2」で紹介する。
ところで、本書で取り上げた残留者一人一人の生活体験は、すべて筆者がご本人と向き合い、聞いてきたことを基にしている。ご本人の人生に大きな影響を与えた当時の社会、過酷な苦労に耐え、苦難を乗り越えようとされた人生の軌跡に、筆者は引き込まれ、時に呆然とし、現代社会における意味を考えさせられてきた。1945年の大日本帝国の敗戦と、それに伴う国境の大変動を生きた、生身の人間の歴史と向き合うことは、改めて、国籍や民族、ジェンダー、人権等について考える機会を与えてくれる。残留者の生活体験を未来社会につなげていく営みは、私たち一人ひとりに求められているが、教育が果たす役割は決して小さくないだろう。
本書は、様々な立場の方に読んで頂けるようにと願っているが、とりわけ、子どもへの教育に高い専門性をもつ学校教員や、これから教員になろうとする学生に手にとって頂きたいと思っている。未来社会を担う子どもたちが、中国・サハリン残留体験と向き合うこと、そして、体験者の託した「何か」を発見したり気付いたりすること、あるいは本書内容をたたき台・踏み台にして先生方による教育実践につながれば幸いである。