目次
はじめに
Ⅰ 政治
第1章 オバマとリンカンの点と線『リンカーン』〈伊藤真悟〉
第2章 正義と権力とFBI『J・エドガー』〈寺嶋さなえ〉
[コラム]オバマケアと『シッコ』
Ⅱ 外交と戦争
第3章 CIAによる狂気のビン・ラディン追跡劇『ゼロ・ダーク・サーティ』〈小澤奈美恵〉
[コラム]『アルゴ』――CIAの表と裏
[コラム]イスラム国の台頭と空白の中東近代史
Ⅲ 経済
第4章 ウォールストリートの壁『キャピタリズム』『インサイド・ジョブ』〈越智道雄〉
[コラム]『TIME/タイム』――カールペ・ディーエムの地獄 or 死も身分差を均さない
Ⅳ 法
第5章 グアンタナモをめぐる攻防『ア・フュー・グッドメン』『グアンタナモ、僕達が見た真実』〈坂本仁〉
[コラム]「恥ずべき」銃規制法案否決
[コラム]合衆国憲法の構成
Ⅴ 宗教
第6章 ユダヤを巡る多様性と可能性『ミュンヘン』ほか〈伊達雅彦〉
第7章 宗教の政治化への異議『ジーザス・キャンプ.アメリカを動かすキリスト教原理主義~』〈石塚幸太郎〉
[コラム]大統領選に見るモルモンの受容
[コラム]音楽を武器に不条理と闘うパレスチナ人ヒップホップ・グループ
Ⅵ テクノロジーとSF
第8章 ウィキリークスが政府・既存メディア・プライバシーに与えた衝撃『フィフス・エステート/世界から狙われた男』〈マイケル・F・クボ〉
第9章 モーゼ・ジェネレイションとヨシュア・ジェネレイション『GALACTICA/ギャラクティカ』〈越智敏之〉
[コラム]ジョブズが歩いた「文系と理系の交差点」
Ⅶ ジェンダー、セクシュアリティ
第10章 ゲイ・カウボーイと自閉するアメリカ『ブロークバック・マウンテン』〈塚田幸光〉
第11章 シンデレラ・イン・ニューヨーク『セックス・アンド・ザ・シティ』『プラダを着た悪魔』〈成実弘至〉
Ⅷ エンターテインメント
第12章 現実世界のコミックヒーロー『バットマン・ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイト・ライジング』〈遠藤徹〉
[コラム]アメリカにおける「日本」の大衆文化
Ⅸ 環境・エネルギー問題
第13章 惑星的危機意識というプロパガンダ『不都合な真実』『ザ・シンプソンズMOVIE』ほか〈岩政伸治〉
[コラム]シェールガス革命と『GASLAND』
[コラム]食の安全
Ⅹ 人種とマイノリティ
第14章 ヒスパニック系移民とファレスの「フェミサイド」『モーガン・スパーロックの30デイズ』『ボーダータウン 報道されない殺人者』〈宗形賢二〉
第15章 変貌する多民族国家に見る「白人性」『テッド』『フライト』〈塩谷幸子〉
第16章 ポスト人種社会へ向けた人種差別風刺コメディ『ハロルド&クマー』シリーズ〈鈴木繁〉
[コラム]ミズーリ州ファーガスンと黒人青年射殺事件――ブラウン判決から六〇年
おわりに――極相生態系に突入した資本主義の迷宮からの脱出を賭けた二〇一六年
引用・参考文献/参考映画
編著者紹介
前書きなど
はじめに
本書は、アメリカ映画を通して現代アメリカ社会の動向や文化の諸相を解説することを目的としている。映画の一つひとつのシーンや台詞には、社会に潜むさまざまな問題が凝縮されている。本書では、例えば、政治、経済、外交、人種、ジェンダー、セクシュアリティなどの問題を映画の中から抽出して詳細に説明しているので、読者の方々には、慣れ親しんだ映画から、現代アメリカが抱えるさまざまな問題に気付き、認識を深めていただければ幸いである。
映画を素材としたアメリカ文化研究を行うに当たって、学際的なカルチュラル・スタディーズの手法を援用している。本書を執筆しているのは、ほとんどが英米文学・文化を専門とする研究者であるが、専門分野で長年培われた知見によって洞察を加えながらも、狭い専門領域を越境し、政治・経済・外交など幅広い領域を横断し、多角的視野で文化を分析することを試みている。
本書が扱う時代は、オバマ政権時代である。歴史的選挙戦を経て史上初の黒人大統領が誕生した二〇〇九年から二期目の半ば、執筆時点での現在である二〇一四年までの六年を対象としている。オバマ大統領は、九・一一以降ブッシュ政権が引き起こした戦争や金融危機の後始末という重い使命を担って、選出されたと言えるだろう。WASPの純粋な血統を引くブッシュ政権の過ちの責任を、混血の黒人大統領が取らされるとは、アメリカ史の皮肉であろうか。
アメリカの富裕層と企業家たちの権利を代表する共和党ブッシュ政権が推進した新自由主義経済においては、規制緩和や富裕層への減税によって、アメリカの富は、弱者から奪われ、特権階級に吸収されていき、貧富の格差はいっそう拡大していった。そしてその帰結は、世界を巻き込む金融危機であった。さらに、九・一一以降、アメリカは、石油資源や軍産複合体の利益追求のために、大量破壊兵器の存在やサダム・フセインとアルカーイダとの関係を捏造してまで、イラク戦争に踏み切った。既に長年のアメリカの外交政策で怒りが増大し、テロの温床となっていた地域をさらに取り返しがつかないくらい刺激し、怒りを煽ったのである。オバマ大統領に背負わされた十字架はとてつもなく重かったと言える。史上初の黒人大統領としての華々しい感動の登場が、厳しい戦いに変わることは、オバマ自身が最もよく理解していただろう。第一期就任演説における「新たな責任の時代」という厳粛な言葉が、そのことを物語っている。
(…中略…)
以上のように、各章から現代アメリカの真の姿をお伝えできると確信している。アメリカ社会や文化に深い洞察を加えた素晴らしい論稿を寄稿してくれた執筆者一人一人の貢献が「オバマの時代」の全体図の完成に繋がったと考えている。
最後に、後進を育てるような寛大さと忍耐で、本の制作過程を見守り、一つひとつの原稿に目
を配り助言を下さった監修者の越智道雄氏に深い敬意と感謝を捧げる。
編著者を代表して 小澤奈美恵