目次
はじめに――「21世紀の台湾」、南隣りの島のゆくえ
I 国際関係――国際社会の荒波のなかで
第1章 国際的地位――国際社会の荒波を乗りこえて
第2章 近くて「近い」隣国――過去へのまなざし・日台両国民の意識
第3章 日台交流、「今」へのまなざし――日本好き族の担う新しい関係
第4章 それぞれひとつの国?――台湾海峡両岸関係・対大陸中国(1)
第5章 台湾海峡の波だち――台湾海峡両岸関係・対大陸中国(2)
第6章 韓国ブーム――冷戦構造の遺構を抱えて・対大韓民国
第7章 在台東南アジア人――人的交流・対ASEAN諸国
第8章 美麗島を通りすぎてゆく外部勢力――前近代の外来政権
II 政治――民主化時代の主体台湾
第9章 ブルー陣営、グリーン陣営――二大政党政治時代
第10章 直接選挙実施――民主化の達成
第11章 台湾か?中華か?――揺れる国家的アイデンティティー
第12章 「民主化の父」――李登輝学校の台湾志向教育
第13章 東アジアの火薬庫――「大陸への抵抗」から「台湾海峡防衛」へ
第14章 対中路線――反中でも親中でもない「和中」
III 経済――先進工業国の横顔
第15章 アジアNIESの優等生――安定成長時代を迎えた貿易大国
第16章 コンピューター大国――ふたつの「兆元」、ふたつの「花形」産業
第17章 携帯電話普及率・旧・トップのIT社会――E時代
第18章 相手方ブランド生産による世界進出方法――OEM生産
第19章 オペレーションセンター機能――経済ネットワークにおける中間統括の役割
第20章 台湾海峡両岸の開放――「大三通(通商・通航・通信)」の時代
第21章 対中投資の活発化――「ECFA」締結から大中華経済圏へ
第22章 農業のサバイバル――WTO加盟とECFA締結のインパクト
第23章 バイオテクノロジー革命――胡蝶蘭の生産、世界一
第24章 遠洋マグロ漁獲高世界2位――遠洋漁業から養殖業まで
第25章 外貨準備高世界4位の「金あまり国」――貯蓄・投資事情
第26章 ショッピングセンター時代――女たちの購買革命
IV 社会――重層的な多元社会
第27章 「奢華」時代の若者たち――「台湾の悲哀」を知らない世代
第28章 亜熱帯気質のなごやかさ――ゆとりと緑の地
第29章 異文化吸収能力――国際化
第30章 マルチリンガル――多言語社会の葛藤
第31章 教育のボーダーレス化――小中高一貫教育と国際化
第32章 スーパーレディの社会進出――共働き社会と女性の地位改善
第33章 ライフスタイルの自由化――少子化、離婚、同性愛
第34章 高齢化社会――家族扶養の原則
第35章 バリアフリー――ユニバーサル・デザインをめざして
第36章 エコロジー志向――環境対策
第37章 緑豊かな島――亜熱帯の植生と人々の意識の変化
第38章 先住民のエスニシティ――過去形でなく個性として
第39章 多民族国家の重層性――エスニック・グループ
第40章 「台湾」も「中華」も込み、2倍の存在――新台湾人
V 文化――充実したコンテンツ
第41章 台湾島再発見――本土化
第42章 郷土文学――台湾意識の見直し
第43章 中国語圏の出版センター――出版の電子化、国際化
第44章 中華文明の変容――漢民族の台湾化
第45章 都市「民俗」リミックス文化――現代に生きる伝統モチーフ
第46章 大衆文化の輸出――「華流」の一大発信源
第47章 二大伝統行事の現在形――現代の旧正月・春節と、端午節
第48章 信仰というヒーリング――現代に息づく民間信仰
第49章 世界宗教の博物館――自由な神仏の宿りたまう地
第50章 健康第一のワザ――フット・リフレクソロジーと太極拳
第51章 自然派志向――黒髪の素肌美人のみずみずしさ
第52章 リラクセーションの天国――アフター5と休日の楽しみ
第53章 烏龍茶の世界化――包種茶のふるさと
第54章 プロ野球リーグ再編成――八百長事件を乗りこえて
VI 芸術――美の宝庫
第55章 国際映画祭受賞――ポスト「台湾ニューウェーブ」時代の世界進出
第56章 近代絵画の台湾風情――「我々の美術」とは何か
第57章 立体芸術のパワー――インスタレーション
第58章 焼きものの郷、鶯歌――郷土工芸復興支援(1)陶磁器
第59章 木彫王国、三義――郷土工芸復興支援(2)木彫り工芸
第60章 現代化した伝統芸能――郷土芸能復興支援(3)人形劇「布袋戯」
参考文献・参考資料一覧
初出一覧
前書きなど
はじめに 「21世紀の台湾」、南隣りの島のゆくえ
沖縄の南隣り、天気予報図では左下に、芽吹く種の形をした島が存在する。その名も台湾。
じつは無意識のうちに天気図を通じて、毎日、この「お隣りさん」を目にしているかたは少なくないのではないだろうか。人口2316万人。アジアでは日本、さらに大陸中国までひかえているために、台湾は小粒に思われがちながら、欧州では人口数百万人規模の国家がざらであることを考えあわせれば、決して無視できない存在ではないだろうか。
国土面積もまた九州サイズながら、台湾は、まるで「ツボ」のようにアジア太平洋各国に様々な影響を及ぼしてきた。たとえば大陸中国には巨額な「対中投資」を通じて。また日本経済にとっては実質世界3位のコンピューター大国らしく「相手方ブランド生産」のパートナーとして。さらに米国の軍事政策には「東アジアの火薬庫」として、少なからぬプレゼンスを保つ。
もちろん表向きに国交を持つのは世界23ヵ国と、「国際的地位」は抑圧されたままであるものの、現実には日本との往来は年々、緊密に。日本からの旅行者は年間110万人レベルで、台湾は渡航先として五本指に名をつらねる。逆に台湾からの来日者数は140万人近くを記録した。そんな物理的・精神的に「近くて『近い』隣国」であり、「日本好き族」まで抱える台湾は、世界一、親日の地と称しても過言ではない。「日本のコピーじゃないの?」逆に「台湾化した中華では」そんな誤解を受けがちながら、実際の台湾は我々の偏見から一歩も二歩も先をゆく、新しい横顔を見せつつあるようだ。
「21世紀の台湾」「直接選挙実施」など民主化の完成の結果、2000年、「台湾、立ちあがれ」という宣言とともに、陳水扁氏が総統(大統領にあたる)に就任。ひとときの与野党交代とともに、半世紀近く続いた一党独裁体制は終焉、新中間路線がうちだされることとなった。大陸への抵抗から、大陸中国との共存へ。さらには彼らと同時のWTO加盟など、国際社会への復帰も進みつつある。経済的には緑のシリコン・アイランドとして発展を続ける一方、「緑豊かな島」としての自覚から「エコロジー対策」も進めており、社会的にも「バリアフリー」や「先住民エスニシティ」の尊重など、新しい現象が見られるようになった。また文化的にも、従来の正統中華の主張から転じて、台湾島という「本土化」重視が進められ、以前からの「郷土文学」見直しや「郷土工芸復興」も定着している。芸術から信仰にいたるまで、精神の息づく地、そしてまた「亜熱帯気質」の人々による「リラクセーション天国」(注:文中の「~の国」、「~国家」という表現は、国際社会に認知されていないものの、ここでは民族自決・現地尊重の主義にもとづいて、便宜上、使用させていただくことを、おゆるしいただきたい)。
本書は前述の「カッコ」書きのような新しい視点を各章のタイトルとしながら、それらの集合によって、台湾という多面的な実体を立ちあげようと試みている。とくに筆者の台湾留学から、その後の継続的な現地取材を通じて得た、最新の事象を大切に、「現代・台湾」をご紹介しよう(なお、参考文献については巻末に一括して掲載したので、興味を持たれた方はさらに読み進めていただきたい。ただし、読者の便宜をはかり、中国語のものは割愛させていただいた。また、本文中のレートは初版・再版執筆当時を基本としている〈1元=3.6~2.7円〉)。
この出版にあたり、じつに多くのかたがたにお世話になってきた。台湾で出会った人々や台北市立図書館、なにより風当たりの強い「台湾」というテーマについて、発表の機会を与えてくださった明石書店に感謝を申しあげたい。お陰様で本書は第3刷まで増刷を重ねたあと、このたび「第2版」として生まれ変わることとなった。初版ではフォローされなかった、その後、10年分の最新情報、満載である。ともあれこの再版は、読者の皆様の存在なしには実現しえなかったことだ。ページを通じた読者の皆様に心からの「多謝」を。謝意にかえて、台湾についてのお問いあわせを筆者の私営サイト「月刊モダネシア」上のメール、または本書同封の読者ハガキにて随時、受けつけ中(eメールアドレス明記のかたに返信)。ちなみに観光や風物についての詳細は姉妹編『台湾事始め~ゆとりのくにのキーワード』(凱風社、2006年)に詳しいので、ご参考いただければ幸いである。
ところで「台湾独立」か「大陸中国との連邦」か。背景に「エスニック・グループ」の対立をも含めて、その議論は内外で半世紀近くに及んできた。政治的立場から経済上の利益、ひいては幸福の定義まで含め、いずれが是非とそう簡単には断定できない状況である。本書をご覧になったうえで、「台湾は大陸中国と異なる主体だ」、いや「統一するほうが自然だ」こうした最終的な判断をくだすのは、あえて皆様におゆだねしたい。本書を「次代を見通すアンテナ」づくりの一助としていだければ、筆者としてこれほど嬉しいことはない。いつの日か、台湾海峡危機の際に。あるいは米中冷戦時に。「その時」、日本という国から我々一人一人にいたるまで決断を問われる可能性がある。読者の皆様は「識の一票」を、どのような形で投じられるのだろう。本書をひとつの参考に、
「判断するのは、あなたです。」
2012年 春節 台湾より北上すること2000キロの北の島にて 亜洲奈みづほ