目次
はじめに
第1章 自閉症の人の死別経験をとらえることの意味
第1節 死別の経験を支えるということ
第2節 自閉症とはどのような障害か
第3節 自閉症をめぐって
第4節 自閉症の人を取り巻く現状と課題
第5節 自閉症の人の死別研究の必要性
*資料1 ICD-10「小児自閉症」の診断基準
第2章 1人ひとりの経験からみえてきたもの――調査方法と調査結果
第1節 調査の概要と分析手法
第2節 質的研究方法によるデータ分析の手法
第3節 調査結果
第3章 悲しみを経験するということ――死別による自閉症の人の反応
第1節 自閉症の人の反応の特徴
第2節 障害特性に固有の反応
第3節 考察
第4章 遺された家族の対応――親なきあとのヒントを得る
第1節 自閉症の人の死別を支える家族の対応
第2節 ケアの社会化に向けて――直接的ケアから間接的対応の増加
第3節 考察
第5章 自閉症の人の死別の経験を保障するために
第1節 自閉症の人の反応と家族等の対応の「関係性」
第2節 家族が気づくこと
第3節 考察
第6章 自閉症の人へのサポートシステムとソーシャルワーカーの役割
第1節 死別後の生活を再構成していくにあたって
第2節 家族がケア役割を委託できるのか
第3節 考察
終章 自閉症の人の死別ケアに向けての提言
第1節 「生活モデル」に主眼をおいた当事者理解と支援のあり方
第2節 自閉症の人の「親なきあと」の生活が可能となるための支援方法について
第3節 ストレングス視点を導入した死別経験への支援に向けて
引用・参考文献
あとがき
前書きなど
はじめに
(…前略…)
○本書の構成について
本書は、第1章から終章までの全7章からなり、各章の内容は以下のとおりである。
第1章では、「新しい障害」としての自閉症の課題という観点から自閉症の人の高齢化の流れについて概括したうえで、本書で重要となる自閉症の人の死別経験との関連性について述べていく。また、自閉症の障害特性が明らかにされてきた過程を論じたうえで、従来の「死別」に関する先行研究を概観していく。自閉症の人の死別経験について論じていくには、従来の死別研究のみでは自閉症の人の死別経験に対応することは困難である。その独自性を追求していくために、従来の死別研究に自閉症の障害特性の知見を用いた視点を入れた。
第2章では、調査方法と調査結果について記した。ここでは質的研究方法を採用した経緯や調査までの流れをまとめ、自閉症の人16名の死別を経験したときの状況やその後の生活状況について事例を紹介し、多角的な視点から分析を心がけた。
第3章では、死別を経験した結果、自閉症の人が示す反応は、その障害特性である「障害の3つ組」に多大な影響を受け、自閉症の人特有の反応を示していることを明らかにした。それらの反応は、3つのカテゴリーから説明可能となっており、この内容について説明を加えている。
第4章では、前章で明らかにされた自閉症の人の反応に対する遺された家族の対応を「社会的関係」から読み解いている。社会的関係を、(1)家族間関係、(2)ソーシャル・サポート、(3)社会福祉サービス、(4)物理的環境の4つのカテゴリーに分類し、これらのカテゴリー・バランスが不均衡になることによって、自閉症の人の生活環境は大きく変化する。つまり、自閉症の人は身近な人を喪失するという経験だけでなく、家族が社会的関係をうまく使いこなして対応しなければ、在宅生活の継続ができなくなるという喪失をも経験することになる。自閉症の人の家族は、自閉症のわが子を育てていく過程においてこの「社会的関係」を使いこなすことが求められてきた。こうした背景が死別経験時にどのように作用するのかを説明していく。
第5章では、自閉症の人が死別を経験していく過程における反応と家族や専門職者による対応との関係性について示していく。家族等の対応の特徴は、(1)故人との対面と死の説明、(2)死別経験の保障、である。家族は自らも悲嘆の中にありながら、自閉症のわが子にどのようにして大切な人との死を理解させるかに心を砕いている。一般に、言語コミュニケーションを苦手とする自閉症の人たちには視覚に訴える支援方法が用いられており、その手法を死別経験時に取り入れている家族は多い。また、これまでの家族の生活観や生活スタイルが、自閉症の人たちの経験の保障に影響している。こうした家族の対応の特徴について具体的な内容を説明していく。
第6章では、自閉症の人のサポートシステムとソーシャルワーカーの役割について検討していく。自閉症の人の生育過程において家族は、コーディネーターの役割を果たし、ソーシャル・サポートの生成を行い、子どもが安心して暮らせるよう、サポートシステムを築いてきている。その過程には、多くの専門職者が介入している。そうしたな過程に関わるソーシャルワーカーの役割について考察するとともに、家族自身が悲嘆から回復するという危機への対応力について説明を加えていく。
終章では、はじめに自閉症の人が生活の主体者であるという視点を描き出すために、「生活モデル」に立脚した当事者理解と支援のあり方について論じていく。最終的には生活の再構成という視点から、自閉症の人の死別後の生活に必要となる支援方法の視点について考究していく。それらをもとに、どのようにして援助者がストレングスの視点に基づいた援助方法を浸透させていくことができるのか、実践における援助方法の構築に向けた提言を試みた。
(…後略…)