目次
はじめに(宇都宮健児)
I 部 徹底討論:いま“はたらく”が危ない
1 いま“はたらく”はどうなっている?——当事者9名による報告「語ろう! わたしたちの雇用・労働」
・湯浅村長、年越し派遣村を語る。そこで見えてきたもの
・派遣村村民として過ごした立場から
・製造業派遣の立場から
・女性事務系派遣の立場から
・一般嘱託というかたちの障害者雇用の立場から
・公務非正規労働者の立場から
・大企業正社員の立場から
・福祉的労働の立場から
・失業者の立場から
2 “はたらく”をどうする?——パネルディスカッションより
・労働組合ナショナルセンターの立場から
・困難な状況の労働者を支援する立場から
・そして、どう連帯できるのか
II部 さらに考える、学ぶ。貧困を生み出す労働とは?
1 女性の労働と貧困について考える——女性はハケンを望んでいるのか?
2 働くことを学ぶ——貧困を生み出す労働とは?
3 住まいのセーフティネットをつくろう——安心して生活できる住まいとは?
おわりに(湯浅誠)
巻末資料 反貧困フェスタ
・反貧困フェスタ2009——催しの数々
・貧困ジャーナリズム大賞 結果発表
・対談 湯浅誠×中島岳志 報告
・賛同団体一覧
・執筆者一覧
前書きなど
はじめに
2009年は、「派遣切り」で職と住まいを失った労働者を支援する東京・日比谷公園の「年越し派遣村」で年が明けました。
「年越し派遣村」は、日本社会に大きな衝撃を与えました。年越し派遣村は、派遣切り被害の深刻さを浮き彫りにすると同時に、これまで日本社会にないと思われてきた「貧困」を可視化させたからです。
もともと労働者派遣制度は、多様な働き方を求める労働者のニーズに応えるという美名のもとに導入された制度ですが、その本質は、企業の利益追求のために、労働コストの削減と手軽な雇用調整弁としていつでも簡単に労働者の首を切るための制度であったことが、今回の大量派遣切りや派遣村の取り組みで明らかになったと言えます。
派遣村は、また、仕事を失えばいきなり住まいも失って路上に放り出され、たちまち生存の危機に瀕する人々が大量に生み出されているという日本社会の貧困の実態を明らかにしました。
(…中略…)
このような情勢下で、今年の「反貧困フェスタ2009」は、2009年3月28日(土)、「労働×貧困」をメインテーマとして開催されました。開催場所は、昨年と同じく、都内の千代田区立神田一橋中学校を借りて行われました。
体育館で開かれたメインシンポジウムは、「いま“はたらく”が危ない」というテーマで開かれ、派遣村村民、製造業派遣労働者、事務系派遣労働者、一般嘱託労働者、公務員非正規労働者、大企業正社員、障がい者、失業者などが労働現場の実態を告発するとともに、労働団体(連合、全労連、全労協)と市民団体(女性、障がい者、野宿者支援)の代表によるパネルディスカッションが行われました。シンポジウムを通じて、労働運動と市民運動の連携・連帯の重要性が改めて確認されたと思います。
この他、屋内会場では、「女性のハケンを考える——女性はハケンを望んでいるのか? 現状は?」「住まいのセーフティネットをつくろう——安心して生活できる住まいとは?」「日本社会の「壁」を崩す——対談湯浅誠×中島岳志」「貧困を生み出す労働とは?!——働くこと《労働》を学ぶ」の四つの分科会と書籍販売などが行われ、校庭では相談会(労働、生活、多重債務、医療)、炊き出し、ライブ、展示、貧困ジャーナリズム大賞の発表などが行われました。
炊き出しに並ぶ人の数も、未曽有の経済不況を反映して、心なしか今年は昨年より大分多かった感じがします。
相談会では、24件の相談がありました。障害相談と雇用相談が少しあった以外は、ほとんど生活相談でした。生活困窮者が多く、12人はすぐにでも生活保護の適用が必要でした。対応として、当座の食費としての貸付を行った上で、翌週月曜日に福祉事務所への同行をすることにしました。現在地である千代田区への集団申請を想定していましたが、本人の生活圏もあり、墨田区と新宿区への申請を希望された方もあり、結局3区に同行することになりました。
貧困ジャーナリズム大賞に関しては、今年は、朝日新聞月曜連載の朝日歌壇における「ホームレス歌人」公田耕一さんが、貧困ジャーナリズム特別賞に選ばれました。心に残る公田さんの歌に、「パンのみで生きるにあらず配給のパンのみみにて一日生きる」「日産をリストラになり流れ来たるブラジル人と隣りて眠る」「親不孝通りと言えど親もなく親にもなれずただ立ち尽くす」「百均の『赤いきつね』と迷ひつつ月曜だけ買ふ朝日新聞」などがあります。
今年のフェスタの賛同団体は98団体、参加者は約1700人に上り、賛同団体、参加者とも昨年を大きく上回りました。この一年間の貧困問題に対する関心の広がりと反貧困運動の広がりを実感できたフェスタであったと思います。
日本社会は、今、大きな岐路に立っています。
これ以上の貧困の拡大を許すのか、それともここで貧困の拡大を食い止め、人間らしく働き人間らしく生活できる社会を確立することができるかが問われています。
貧困問題を解決していくには、消費者運動、労働運動、社会保障運動の垣根を越えた協力・協働がこれまで以上に重要となっています。また、イデオロギーや政治的立場を超えた連携・連帯が大切になっています。
反貧困運動は、いわば「平成の世直し運動」です。貧困が広がる社会を変えるため、今こそ一人ひとりが声を上げ、立ち上がりましょう。そして、今こそ一人ひとりが垣根を越えてつながりましょう。そうすれば、必ず国や社会を突き動かし、「貧困」という大きな山を動かすことができるものと確信しています。
本書の出版によって、わが国社会で貧困問題に対する関心を持つ人が多くなるとともに、反貧困ネットワークの運動が全国に広がることを祈念するものです。
二〇〇九年六月二十五日