目次
プロローグ 過去への旅立ち
第1章 最初の人びとの足跡(紀元前1万2000‐紀元1500年)
第2章 カシカスゴとセニョリオ(1500‐1570年)
第3章 征服と抵抗(1502‐1570年)
第4章 植民地時代前半のコスタリカ(1570‐1700年)
第5章 商人と農民(1700‐1850年)
第6章 コーヒーと資本主義と自由主義国家(1850‐1890年)
第7章 多様化、闘争、民主主義(1890‐1930年)
第8章 不況、社会改革、そして内戦(1930‐1950年)
第9章 中流階級の黄金時代(1950‐1978年)
第10章 過ぎ去ったばかりの過去、近い将来
エピローグ コスタリカの特異性
『コスタリカの歴史』とコスタリカの歴史教育に関する解説(小澤卓也)
コスタリカの年表
索 引
前書きなど
プロローグ
日本語で出版される最初のコスタリカ通史となるこの本は、日本の読者にコスタリカの歴史を図版付きの物語として読んでもらおうとするものである。本書では、コスタリカの彩り豊かな独特の歴史のなかで起こったおもな出来事に焦点が当てられている。物語は、熱帯のジャングルが原始的な狩猟生活をしていた人びとの足跡を消し去ってしまった原始時代から都市が発達し生活が複雑となった現代までを扱っている。対象とする時代は長く、紀元前4000年から紀元前1000年の間の植物が栽培されるようになる時代から1948年の内戦まで、さらに19世紀のコーヒーとバナナ産業の勃興から1990年代の観光ブームまでが扱われている。
本書は、観光旅行者向けにコスタリカの自然の驚異を宣伝するために書かれたものではなく、ラテンアメリカの典型的な国でもあるコスタリカというひとつの国が形成された背景と特徴を読者に知ってもらうために書かれている。いくつかの点で、本書は旅行会社が毎日提供している情報に類似してはいるが、本書による小旅行はコスタリカの火山や砂浜や小島を訪れることではなく、過去への旅行である。
さあ、君自身が原始時代の狩人と一緒に狩りに出かけ、16世紀の部族社会における日常の仕事を観察し、スペイン人による征服に参加してみよう。君は植民地時代の村に滞在し、1830年以降のコーヒー栽培の拡大を体験し、19世紀末の未知のジャングルを拓いてもたらされたバナナ産業ブームを自分の目で見ることになる。そしてこの旅行が出発点に戻ったときには、君はひとつの国が形成され民主主義が定着するのを見つめ、農民や職人や労働者の抗議行動に参加し、1930年の経済危機と1948年の内戦を身近に見つめることになる。そして最後に君はコスタリカの社会民主主義の夢(1950−1978)の失敗の跡を訪れ、21世紀の幕開けとともに新自由主義(ネオリベラリズム)がもたらしたショッピング・モールで午後の買物をして、ポストモダン時代の熱帯の共和国を楽しむことになる。
乱気流が予想されているので、シートベルトをしっかりと締めて、楽しい旅行に出てみてください。