紹介
人間という矛盾の塊は、どう救われていくのだろうか。
それを突き詰めて表現する「文学」を語り尽くす、二つの渾身の講演録。
佐藤泰正「文学が人生に相渉る時―文学逍遥七五年を語る」、山城むつみ「カラマーゾフの〈人間学〉」を収録。
【齢九十を超えた日本近代文学の碩学が七十五年の人生を振り返り、文学の奥義を語るというような堅苦しい厳めしさは少しもない。「両極、矛盾の塊である人間、両極のどちらも片付けない、手放さないで、それを抱えていく、人間を問い詰めていく。それが文学だ」と、口角泡を飛ばしながら繰り返し語っているのは、やはり十六歳の青年だ。だから現実にも若い人を動かすのだろう。……山城むつみ
小林秀雄が、つまり投げ捨てたというか、そこで止まったドミートリイという人物の揺れ動く矛盾そのものと、別の人物たちとの葛藤にふれて微細に分析して語って下さったのが、今日の山城さんの講演であります。それはカチェリーナとグルーシェンカという二人の女との間を巡って、ドミートリイという、あるがままの矛盾をそのままさらけだしている、ドストエフスキーの描く矛盾そのものと言っていい人物の典型ともいうべき存在の姿を実に見事に丁寧に分析してくださいました。……佐藤泰正】
目次
まえがき ◉ 山城むつみ
§1
文学が人生に相渉る時―文学逍遥七五年を語る―
◉ 佐藤泰正
1 はじめに
2 十六歳のドストエフスキイ
3 早稲田にて
4 衝撃のドストエフスキイ
5 志村ふくみさんとドストエフスキイ
6 ドストエフスキイと日本の文学者たち
7 文学は〈人間学〉
8 狭間に生きる
9 漱石との遅い出会い
10 大学院開設のとき
11 磯田光一という人
12 三島由紀夫とドン・キホーテ
13 磯田さんと芥川・小林
14 知的放蕩の学生時代
15 同人誌そして戦争
16 わたしたちのアイデンティティ
17 〈余生〉として
18 私学は志学として
19 「パノンの会」そして始めての自著
20 大学を卒業して
21 終戦そして梅光の復興
22 教育の原点を求めて
23 村上春樹の〈志〉
24 中原中也賞と川上未映子
25 吉本隆明さん
26 大岡昇平さん
27 遠藤周作さん
28 人生に相渉るとは何の謂いぞ
29 神と文学の間で
§2
カラマーゾフの〈人間学〉
◉ 山城むつみ
1 佐藤先生からの電話
2 文学は〈人間学〉
3 「父殺し」から遠く離れて
4 最小限のあらすじ
5 川の両岸が交わるところ
6 ええカッコしいのドミートリイ
7 コーカサスの「美談」
8 「美談」の内幕
9 カラマーゾフ的享楽—ドミートリイの場合
10 カラマーゾフ的享楽—イワンの場合
11 贈与の一撃とそのダメージ
12 マドンナの理想からソドムの理想
13 ソドムの理想からマドンナの理想
14 斜光が射し込む瞬間
講演のあとに―お礼の言葉(佐藤泰正)
あとがき ◉ 佐藤泰正